■天使の爪 / メビウス(画)、アレハンドロ・ホドロフスキー(原作)
つい先ごろ『猫の目』が国内出版されたばかりのメビウス&ホドロフスキーによるタッグ作品がまたもやリリースされた。タイトルは『天使の爪』、そしてこれがなんとメビウス描く淫猥極まりないグラフィックが躍る超絶ポルノグラフィだったのである。
この『天使の爪』はコミック形式の作品ではなく、『猫の目』と同じくメビウス描く大判のグラフィックにホドロフスキーの散文が添えられ、ある種のストーリーめいたものを形作る構成となっているのだが、このグラフィックがことごとく、あからさまにインモラルな性的イメージに満ち溢れたものなのだ。そしてそれにインスパイアされて書かれたホドロフスキーの文章は、この物語の"主人公"とされる"女"の倒錯した性の遍歴を、それが密教の秘儀の如くであるように魔術的に描写するのである。
この『天使の爪』に奔出する性的イメージのインモラルさは、甚だしく多岐に渡る。それは近親相姦と精液と経血に始まり、オーラル・セックスとスカトロジー、緊縛とボディピアス、サディズムとマゾヒズム、同性愛と両性具有、去勢と涜神、隷属と支配、凡そ並べられるであろうあらゆるタブーを犯しながら、これでもかとばかりに背徳のイメージを重ねてゆくのだ。そしてそこでメビウスは、男性器も女性器も性交シーンも、臆すことなく奔放に描画しつくしているのだ。
しかしもちろんこの作品はありきたりなポルノグラフィの枠に留まる物ではない。剥き出しの性と汚辱とを描きながら、そのグラフィックはメビウスの手によって一級の芸術作品としての完成度を持ち、危険な甘美さと暗い愉悦に満ちた秀麗な作品として仕上がっているのである。
この作品が創作されたそもそもの発端は、メビウスが自らの抱えるサディスティックな性的衝動に困惑し、それをホドロフスキーに吐露したところ、ホドロフスキーがそれをあえて作品化してみてはどうか、と持ち掛けたことから始まったのらしい。即ち、コントロール困難な自らのリビドーとあえて正面から向き合い、作品として対象化することで、精神療法的な【昇華】をメビウスにもたらそうとホドロフスキーは考えたのだ。
だからこそありとあらゆる性的倒錯の旅路の果てに、この物語の"女"は【解放】と【変容】を獲得し、法悦ともいえる【浄化】へと飛翔するのである。そしてそれは、メビウス自体の精神的【浄化】であることに他ならない。それにしても一見するならポルノグラフィでしかないものにさえ、形而上的な魂の遍歴を映し出すメビウスとホドロフスキーの、その類稀なる技に感服した作品であった。
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