最近読んだ本 / 日本をテーマにしたSFアンソロジー『THE FUTURE IS JAPANESE』

THE FUTURE IS JAPANESE (Jコレクション)

フィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞した伊藤計劃『ハーモニー』ほか、日本SFの翻訳出版を精力的に進めるHaikasoru。同レーベルから刊行された、日本がテーマのアンソロジーをJコレクションにて凱旋出版。日本作家は、円城塔小川一水菊地秀行の書き下ろしに、飛浩隆星雲賞受賞短篇「自生の夢」再録、伊藤計劃の傑作「The Indifference Engine」英語版をそのまま収録。いっぽう海外作家は、ネビュラ賞受賞のケン・リュウローカス賞3部門同時受賞のキャサリン・M・ヴァレンテという本邦初訳の新鋭から、大御所ブルース・スターリングまで、書き下ろし8篇を訳載する。

日本の漫画・アニメの翻訳出版等を行うアメリカ企業・ビズメディアが有する日本SFの翻訳レーベル、Haikasoruから刊行されたアンソロジー。内容は”日本”をテーマに日本・英語圏SF作家が競作した短編作品集となる。ただし日本作家のほうはどちらかというとテーマそっちのけに自由に書いている作品が多く、また英語圏作家のほうは例によってちょっとずれたジャポネスク風味の作品も散見するが、逆にレイチェル・スワースキー「樹海」のように「よくこんなテーマをみつけてきたな」と思えた作品もあった。まあ楽しく読めたのでそれほど堅苦しくテーマにこだわることもないだろう。全体的に日本作家よりも英語圏作家のほうが面白く読めただろうか。エカテリーナ・セディア「クジラの肉」は舞台が北方領土、という部分が面白かったし、御大ブルース・スターリング「慈悲観音」は北朝鮮の攻撃で無法地帯になった対馬を舞台に海賊たちのドタバタが繰り広げられる。
しかし最も感銘を受けたのは小川一水の「ゴールデンブレッド」だ。小惑星コロニーを舞台に、ここに不時着した日本人とコロニーに居住する白人住人たちのやりとりを描くのだが、この物語における日本人登場人物はどっぷりと西欧化されており、対するコロニーの白人住人たちは古風な和式スタイルの生活を頑なに守る者たちなのだ。この中身と外面の入れ替わった二者の「日本的なるもの」への齟齬の描かれ方が非常に面白い。そしてその中心で語られるのは日本的な農業と農業共同体のあり方なのである。いわば相対化された日本人像、日本的農業像をここでは描写しており、それが日本人である自分自身にもはっとさせられるような切り口を見せ、実に感動的なラストを迎えるのだ。まさに設定の妙味が勝利した傑作だと言えるだろう。
また、ラストには伊藤計劃の「The Indifference Engine」が英語版で掲載されており、オリジナルを読んだことがある方も"英語になった伊藤計劃”にチャレンジしてみるといいかもしれない。

THE FUTURE IS JAPANESE (Jコレクション)

THE FUTURE IS JAPANESE (Jコレクション)