『ペルディート・ストリート・ステーション』はつまんなかったなあ。

■ペルディート・ストリート・ステーション / チャイナ・ミエヴィル

ペルディード・ストリート・ステーション (プラチナ・ファンタジイ)

ペルディード・ストリート・ステーション (プラチナ・ファンタジイ)

《バス=ラグ》と呼ばれる蒸気機関と魔術学が統べる世界で、最大の勢力を誇る都市国家ニュー・クロブゾン。その中心には巨大駅ペルディード・ストリート・ステーションが聳え、この暗黒都市で人間は鳥人や両生類人、昆虫型や植物型の知的生命体と共存していた。
大学を辞め、独自の統一場理論の研究を続ける異端の科学者アイザックは、ある日奇妙な客の訪問を受ける。みすぼらしい外套に身を包んだ鳥人族〈ガルーダ〉のヤガレクは、アイザックに驚くべき依頼をする。忌まわしき大罪の代償として、命にもひとしい翼を奪われたヤガレクは、全財産とひきかえにその復活をアイザックに託したのだった。
飛翔の研究材料を求めはじめたアイザックは、闇の仲買人から、正体不明の幼虫を手に入れる。そのイモ虫は特定の餌のみを食べ、驚くべき速さで成長した。そして、成虫となった夢蛾スレイク・モスが夜空に羽ばたくと、ニュー・クロブゾンに未曾有の大災害が引き起こされた。モスを解き放ってしまったことから複数の勢力から追われる身となったアイザックは、夢蛾を追って、この卑しき大都市をさまようこととなる。翼の復活を唯一の望みとするヤガレクとともに……。
英国SF/ファンタジイ界、最大の注目作家であるミエヴィルが、あらゆるジャンル・フィクションの歴史を変えるべく書き上げたエンターテインメント巨篇。アーサー・C・クラーク賞/英国幻想文学賞受賞作。

冗漫、冗漫、ああ冗漫。チャイナ・ミエヴィルのSF?ファンタジー?『ペルディート・ストリート・ステーション』はハードカヴァー活字上下組600ページあまりに渡って実にうんざりさせてくれる冗漫な情景描写がひたすらだらだらと続く実に退屈な長編小説だ。
スチームパンクTRPG?2009年度ベストSF第1位?そんなのは知らない。そんなのは関係無い。多分現実のロンドンの町に貧困な想像力でちょっぴり色付けした"それっぽい雰囲気"だけの薄っぺらい世界に、思いつき程度の背景を持った、奇矯である以外は何一つ魅力の無い登場人物たちが、ひとつも盛り上がらないしょぼくれたサスペンスに投げ込まれ、説得力皆無の解決策に基づいて、行き当たりばったりのアクションを適当にこなしたあと、本当の問題は投げっ放しのまま、作者一人が自己陶酔している結末を迎え、読んでるこっちは「はあぁ??」と疑問符を頭の上に浮かべるだけ浮かべ、呆然とした後「金返せ!」と激怒したくなるようなお話である。昨今これだけ酷い長編を読まされたのも珍しい。
なにしろ世界観がちぐはぐだ。魔法が存在し、蒸気駆動による科学も発展しているという設定だが、何故魔法が使えるのかは説明が無いし、科学にしても、テクノロジー・レベルがメチャクチャで、モビル・スーツや自意識を持ったAIは登場するのに、武器はマスケット銃レベルなのである。都市はいかにもな"汚濁にまみれた町"だが、貧乏人しか出てこないその街がどのような経済形態でここまで巨大都市となり運営され存続しているのか果てしなく謎。亜人間が各種登場するがなぜこんなにいろいろいるのかも謎。物語の要となる「危機エンジン」なるテクノロジーも説明がお粗末でまさに噴飯物、事件の発端となる蛾の化け物が登場する経緯も適当過ぎて「他に思いつけなかったんだろうな」と溜息が漏れる。
最悪なのはヒロイン、これが顔が虫で体が人間、そのヒロインと人間の主人公が恋愛関係だというのが正直理解できない。ただひとつ褒められるのはこれだけどうしようもないお話を長々と綴りあまつさえ完成させてしまうという愚直なまでの作者の鈍感力だろう。思わせぶりな描写だけで何も起こらずだらだらと続くこの筆致はアマチュア作家の一番酷い例そのもので、いったいどこをどう間違ってプロデビューしたのか不思議なくらいだ。あーあ、時間損した。