短編集『洋梨形の男』はデブ差別と恐妻男がテーマだった!?

■洋梨形の男 / ジョージ・R・R・マーティン

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

河出書房奇想コレクションの新刊はSF・ファンタジー作家ジョージ・R・R・マーティンのホラー作品集『洋梨形の男』。ジョージ・R・R・マーティンといえばオレは早川から出ていた『サンドキングス』を大昔読んでいたきりなのだが、SFホラーの大傑作と名高い表題作をはじめ、妙にねっとりぬっとりした作風が微妙に印象に残っている。今回の日本独自編集版ではSF寄りではなく、この奇想コレクションらしいホラーテイストな"奇妙な味"を集めている。

それにしても読んでみて思ったのだが、このジョージ・R・R・マーティン、肥満と自分の女房に限り無く恐怖心を抱いてるのではないかという作品が並んでいたな。

生白いブヨブヨの肥満男が恐怖を煽る表題作『洋梨形の男』は、主人公の女がストーカーされたとかどうとかではなく「あのデブチョーキモイ!視界に入んな!爆発しろ!」という嫌悪感が「あんなに見た目がキモイんだからきっと性格も変態で頭も狂ってるに違いないわ!キャー襲われるー!助けてー!」に変わっていくというホラーで、そのデブの描写も確かにキモイがデブイコールキモイというのもあんまりではないかと思わせるのであった。
同様に『モンキー療法』は大食漢のキモデブが謎のダイエットに手を出して死ぬような思いを味わうっていう話なんだが、この徹底したデブ虐め、作者のデブに対する恐怖…というか差別が根底にあるんじゃないのか!?そういえば先に挙げた短編集『サンドキングス』のなかの1作品『〈蛆の館〉にて』は地中をのたくる巨大蛆の恐怖を描いたゴシックホラーだったが、マーティンってデブに対して巨大蛆みたいなイメージを抱いていて「あいつらキモイ!ホントーにキモイ!」と心の底から思ってるんじゃないだろうか!?

『子供たちの肖像』は年老いた作家の元に送られてくる疎遠になった娘からの絵が、かつて作家がいかに家族をないがしろにしていたかを明かしてゆく、といった物語なんだけれど、ここで描かれる作家とその古女房が仲悪くてねー。いやー奥さんにネチネチ言われる描写が圧倒的過ぎて「おいおいマーティン、これ実体験だろ!?」とついつい問い詰めたくなりましたわ。

さらに『成立しないヴァリエーション』でも主人公夫婦の険悪なことと言ったら読んでるこっちまでうんざりした気分になるぐらいで、あたかもハイテクミサイルの如く的確に相手の嫌がる言葉・傷付く言葉を投下してゆく奥さんのそのイヤッたらしさは、あまりに真に迫っていてちょっとリアル過ぎ!マーティン、お前何があったんだ!?話聞いたげるからちょっと一緒に飲もうか…とさえ思ったぐらいである。なおこの『成立しないヴァリエーション』はチェスと時間旅行をテーマにした復讐についての物語なんだけど、時間旅行を可能しておきながらやってることは復讐という、みみっちい男が登場して哀れを誘う。あ、オレ?、もしオレが時間旅行ができるようになったら勿論あんなやつやこんなやつに仕返ししまくりだよ!復讐って楽しいもんね(オイ)!

その他オーソドックスなホラー『思い出のメロディー』、酒場の戯言がラストに壮絶なオチを持って来る『終業時間』などが並ぶが、あれこれ書いたけどなかなか読ませる高水準の話が多かったな。他の河出書房奇想コレクションの特色である"奇妙な味"作品よりもストレートに話が展開してゆくからとっつきやすいのかな。でもちょっと描写がしつこいけどね!