ジョージ・A・ロメロの初期作品『マーティン/呪われた吸血少年』を観た

■マーティン/呪われた吸血少年 (監督:ジョージ・A・ロメロ 1978年アメリカ映画)

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ジョージ・A・ロメロ監督により1978年に公開されたホラーサスペンス映画『マーティン/呪われた吸血少年』、やっと観る事ができました。しばらくソフトが廃盤になっていたんですが、この度クラウドファンディングによりようやくブルーレイ化販売されたんですね。これまでずっと観たかった作品だったので発売を知った時はホントに嬉しかった。

ロメロのフィルモグラフィにおいてこの『マーティン/呪われた吸血少年』は『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)の10年後のものとなり、この作品の後に『ゾンビ』(1978)が公開されることになります。そして物語は吸血鬼をテーマにした一人の青年の暗い青春を描いたものなんですね。

《物語》ピッツバーグ行きの夜行列車で、青年マーティンは女性客を襲い生血を吸った。死体を隠蔽し列車から降りた彼を出迎えたのは、いとこのクーダという老人だった。マーティンの吸血行為を知るクーダは、自宅に彼を住まわせ、行動のすべてを監視する。だがマーティンは血を求める衝動に勝てず、夜に家を抜け出して凶行を続けていた。その一方で、クーダの孫のクリスティーンと仲良くなった彼は、彼女の提案で電話を引く。ラジオの身の上相談に電話し、自分が吸血鬼であることを告白すると、しだいにリスナーの人気者となる。彼が唯一心を通わせたサンティーニ夫人との交流を経て、吸血衝動がしだいに抑えられマーティンは普通の生活を送るかに思えた。だが夫人が突然自殺したことをきっかけに、物語は衝撃の結末を迎える。

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「吸血鬼をテーマにした」とは書きましたが、この作品には超自然的な描写は一切描かれません。従来的な吸血鬼と同じなのは血を欲しがる事だけ、とは言っても牙が生えているわけでもなく、蝙蝠に変身したりしないし鏡に身体は映るし日光やら十字架やらニンニクやらは気にも留めません。いわゆる「嗜血症」の病を抱える普通の人間にしか見えないんです。これによりこの物語は一般的なホラー作品と言うよりは、一種の心理サスペンス的な様相を呈することになります。

しかしこのマーティンと絡む80歳を超える「従弟」のクーダという男が登場することにより物語は錯綜します。80歳を超えるのに青年のマーティンと従弟って?と変に思いますが、マーティン自身も自分を84歳だ、と主張しています。そして物語の合間合間に、彼の数十年前の記憶と思われる古い時代の光景がフラッシュバックします。ある意味マーティンが「超自然的存在」と思わせるのはここだけなんです。クーダはマーティンを一族の呪われた血だ、お前はノスフェラトゥだと呼んで忌み嫌います。

ここでもう一つ疑問が湧きます。やはりマーティンはただの精神病の青年であり、彼の「過去の記憶」はクーダによる度重なる虐待によって植え付けらえれた強迫観念的な妄想なのではないか?ということです。こうして物語はその超自然性の所在を曖昧にしたまま進んでゆきます。しかし、マーティンの血を求める凶行は相変わらず止まらず、ホラーサスペンスとしてのテイストはきちんと保たれながら展開してゆくんですね。

この物語は一見吸血鬼の物語のように思わせながら、もう一つ、青年マーティンの孤独な青春を浮き彫りにしてゆきます。人に物怖じしやすく無口な性格、クーダという庇護者への反発、女性への性的な憧れ。見方を変えるなら、実はこの物語は強権的で無理解な父性がマーティンに対する「反抗的で訳の分からない若造」という印象を「吸血鬼」と言う名のモンスターであると言い換えたものだと見る事もできるんです。そして当然、女性の血を追い求める行為は青年期に膨れ上がる性的欲望のメタファーとして見る事が出来るでしょう。

性的欲望により暴走し女性を血祭りに上げるマーティンはある意味確かにモンスターです。しかし同様に、一人の青年を精神が歪んでしまうほど虐待し続けたクーダという男ももう一人のモンスターであるという事ができます。これは心優しいフランケンシュタインの創造物を、外見の不気味さからモンスター呼ばわりし死に追いやろうとした村人たちが、逆に真の意味でモンスターではなかったのか、ということと似ています。即ちこの物語には「モンスターとは誰だったのか?」という問い掛けがあるんです。深読みするならこの物語の底には、監督ロメロの青春期の鬱屈と叛逆が含まれているという事も考えられるでしょう。

しかし心理サスペンス的ではありながら、マーティンが女性を襲撃するシーンでは、後の『ゾンビ』を彷彿させるスピーディーかつ非常に理に適ったサスペンスアクションを見せてくれるのですよ。カット数も尋常ではなく、『ゾンビ』前夜のロメロの才能の発露を見て取ることができまるんですよ。全体的には地味目な静かな映画ではありますが、『ゾンビ』ファン、ロメロ・ファンは必見でしょう。というかファンなら言われなくとももう購入していると思いますが!