飲むべきか飲まざるべきか、それが問題だ。/映画『アナザーラウンド』

アナザーラウンド (監督:トマス・ビンターベア 2020年デンマーク映画

さぁけはぁのうめいのうめい のぉむぅなぁらぁばぁあぁぁあ~~。皆さんこんにちは、平日でもワイン1本空けて飲んだくれているブログ管理人のフモでございます。

みんな大好きマッツ・ミケルセン主演の映画『アナザーラウンド』は酒にまつわる作品です。物語はアルコール摂取に関するなにやら怪しげな実験から始まります。それは「血中アルコールが0.05%であれば人生いろいろイイ具合になる」とかいう胡散臭い理論に基づいたもの。しかし高校教師のマーティン(マッツ・ミケルセン)と同僚たちは「いいねえ」とか言いながらその実験を始めちゃうんですね。つまりどういうことかというと、昼間っから酒飲みながら学校の授業しちゃうんです!おいおい!

冴えない高校教師のマーティンと3人の同僚は、ノルウェー人の哲学者が提唱した「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」という理論を証明するため、実験をすることに。朝から酒を飲み続け、常に酔った状態を保つと授業も楽しくなり、生き生きとするマーティンたち。生徒たちとの関係も良好になり、人生は良い方向に向かっていくと思われた。しかし、実験が進むにつれて次第に制御がきかなくなり……。

アナザーラウンド : 作品情報 - 映画.com

ところで実際「血中アルコールが0.05%」というとどういう状態になるものなのか?という事を厚生労働省のサイトで調べてみました。これによると【血中濃度(%)が「0.02~0.04:爽快期」「0.05~0.10:ほろ酔い期」「0.11~0.15:酩酊初期」「0.16~0.30:酩酊極期」「0.31~0.40:泥酔期」「0.41~:昏睡期」】ということらしいんですね。もちろん日本人と白人とでは体格もアルコール代謝能力も違うので、これをそのまま映画の登場人物たちに当てはめるわけにもいかないのでしょうが、とりあえず「血中アルコールが0.05%」は確かに「ほろ酔い」程度ではある、という事なんですね。

で、この「血中アルコールが0.05%」の状態で学校の授業がなぜかこれまでよりも上手くいっちゃうんですね!ホントかよ!?それに味をしめたマーティンさん御一行、「もっと飲めばもっと上手くいくんじゃね?」とばかりさらに量を増やし、その量はいつしか「0.5%」、すなわち「泥酔期」「昏睡期」の領域に至ってしまうんです!それによりマーティンさん御一行は仕事も家庭も滅茶苦茶になっちゃうわけですが、あまりにも当たり前というか、そんなもん飲む前に分かりそうなもんだろ!?

だいたい「アルコール摂取し続ければ全てがOK」であるなら、そんなもん人類はとっくにやってるでしょうが、やってないのは「そんなわきゃあないから」に決まってます。しかしこの物語は、そんな「あまりにも明らかなことをあえてやっちゃう馬鹿馬鹿しさ」を通し「酔っ払い男たちの可笑しさ、愚かさ」を描き出しているんですね。

しかしこの物語の本質にあるのはそれだけではないんです。主人公となる男たちは「怪しげな実験」でもしなければどうしようもないような、人生に対する行き詰まりを感じています。特に主人公マーティンはPTAから授業のつまらなさを槍玉にあげあられ、妻とはすれ違い生活の毎日であり、自信喪失状態です。通常そこで酒に手を出しちゃうと人生の転落を描く暗鬱なだけの物語になっちゃいますが、この物語は「最初は上手くいっちゃう」という部分で奇妙なファンタジーとして成立しているんですね。それにより、「面白くてやがて悲しき」人生のペーソスに満ちた作品となっているんですよ。そのペーソスのあり様が、この作品を愛すべきものにしているんです。

もうひとつよかったのは、酒で大失敗してもうこりごり、な主人公様御一行を描きつつ、でも酒を悪者にしていない、楽しく飲めば酒はいいものですよ、と最後に描いている部分です。特にクライマックスのマッツ大乱舞シーンは、数多あるマッツ映画の中でもマッツの魅力を十二分に引き出した名シーンと言えるのではないでしょうか。いや、マッツの映画を全部観てるわけではないんですが、マッツ・ファンじゃないオレでも、このシーンでマッツに惚れました。