ロメロのお蔵入り作品が遂に公開/映画『ジョージ・A・ロメロのアミューズメント・パーク』

ジョージ・A・ロメロのアミューズメント・パーク (監督:ジョージ・A・ロメロ 1973年アメリカ映画)

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『ゾンビ』でその名を轟かす映画監督ジョージ・A・ロメロが1973年に製作しながら今までお蔵入りになっていた作品が公開される、と聞いたらこれは黙っていられない。タイトルは『ジョージ・A・ロメロのアミューズメント・パーク』、老人が遊園地で酷い目に遭うという映画なのらしい。1973年と言えばロメロ作品『悪魔の儀式』(72)の後、『ザ・クレイジーズ』(73)と同年の製作時期となるが、なにしろ思い切り初期の頃の作品という事だ。

映画がお蔵入りになるというのには、相当につまらない、とか配給先が見つからない、などいろいろな理由があるのだろう。ではこの『アミューズメント・パーク』はどういった経緯があったのかと言うと、まずこの作品、ルーテル教会が高齢者問題を題材にした啓蒙映画をロメロに依頼したのが始まりらしい。啓蒙映画、日本で言う公共広告機構の提供する道徳CMの長尺版だと思ってもらえればいい。しかし出来上がった映画はロメロらしい陰鬱な内容で、啓蒙映画として過激すぎるという判断から公開が中止されたのだという。

それはどんな内容なのかというと、一人の老人が主人公となり、その彼が遊園地のあちこちで罵倒され差別され無視され冷笑され騙され暴力を振るわれるという、あらん限りの不幸な目に遭う様子を描いた作品なのだ。その中で老人はどんどんボロボロのヨレヨレのドロドロになり、血だらけになりながら泣きわめき逃げ惑い絶望に項垂れるのである(なんだ書いていて段々恐ろしくなってきたぞオイ)。舞台は遊園地だがこれは現代社会の縮図として描かれており、いわば寓話的作品として観ることが出来るのだ。

さてそんな作品が面白いのかどうか、ということだが、一般の、ロメロの事を知らない人が観ても「なにこれ?」にしかならないことは確かだろう。しかも上映時間は53分、エンタメ作品を楽しみたいなら微妙な長さでしかない。そういった意味では一般にはお勧めしない。しかし、ロメロ・ファン、ロメロ・マニアにとっては、資料的な意味も含めて、これはいろいろな楽しみ方のできるまさに掘り出し物的な作品と言うことができるのではないか。

まずこの作品、啓蒙映画という建前があり、高齢者問題というアピール点が最初から明確なため、それをどう視聴者に印象付けるかという観点において、ロメロがかつてCM製作関わっていた際のセンスが大いに発揮されているのではないかと感じた。しかもロメロはカット割りが多いことで有名だが、この作品の尋常ならざる息苦しさはやはりカット割りの多さに由来するのではないか。計ったわけじゃないから断言できないけど。でもきっといつかロメロ・マニアの方が計測して「53分しかないのに長編1本分のカット数!」とかやってくれるんじゃないかな。

映画ではまるで地獄巡りの如く老人が様々な嫌な目に遭ってゆくのだが、なにしろ高齢者問題を濃縮したかのように次々に起こるものだから次第に不条理劇じみた様相を呈し、その異様なドタバタの様子はシュールなブラックユーモア作品として観ることもできる。そしてそこに一瞬だけ死神のショットが挿入されることもあり、この辺りにロメロ独特の「悪意」を感じる。ホラーというのがある意味「悪意」についての物語であると考えるなら、この作品もまごうこと無きホラーと言えるだろう。荒くれバイカー集団が登場し老人をいたぶるシーンでは、誰もが頭の中で「バイカーといえばゾンビ!」と思うことだろう。

ところでこの『アミューズメント・パーク』の公開を記念して、先ごろ全ロメロ作品をコンパクトに紹介したムックが発売されている。タイトルは『ジョージ・A・ロメロの世界 映画史を変えたゾンビという発明』という本だ。実はこの本、オレも一文書かせてもらっており(自己アピール)、オレの原稿はたいしたことはないが(慎ましい謙遜)他の執筆者の記事が充実しているので(ヨイショ)、必携必読だろう(断定)。