ホドロフスキー、ロメロ、ウォーターズ、リンチ。カルト映画のルーツに触れるドキュメンタリー映画『ミッドナイト・ムービー』

■ミッドナイト・ムービー(監督:スチュアート・サミュエルズ 2005年カナダ映画

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■午前零時のカルト・ムービー

アレハンドロ・ホドロフスキージョージ・A・ロメロジョン・ウォーターズペリー・ヘンゼル、リチャード・オブライエン、デヴィッド・リンチ。これらの名前に二つ以上ピンと来た方にお勧めしたいドキュメンタリー映画がある。そのタイトルは『ミッドナイト・ムービー』、2005年公開のカナダ映画だ。

1970年代、アメリカのアートハウスシアター系で上映されたカルト映画群、それらを総称して「ミッドナイト・ムービー」と呼ぶのだという。1970年、エルジン劇場において『エル・トポ』が公開。深夜公開ながらそのエクストリームな内容に噂が噂を呼んで多数の観客が詰めかけ、ロングラン上映となった。それに端を発し様々なカルト映画が深夜上映されるようになり、そしてそれらは「ミッドナイト・ムービー」と呼ばれるようになった。

このドキュメンタリーでは、ホドロフスキー『エル・トポ』から始まりデヴィッド・リンチイレイザーヘッド』に至るまでの、「ミッドナイト・ムービー」の系譜を辿ってゆく。

実際オレも、紹介された映画監督・映画作品がどれもお気に入りで、ソフトを購入して何度も繰り返して鑑賞しているものばかりだ。なにより、大好きなカルト映画監督の大好きなカルト映画作品が次々と紹介され、それら監督が登場して自らの作品とその時代とを語ってゆくという構成に、終始ニンマリしながら鑑賞することとなった。そして「ミッドナイト・ムービー」に詰めかける多くの観客たちと同じように、このオレもこういったビザールな感触の映画作品をこよなく愛していたのだな、と再確認させられたのである。

紹介されたそれぞれの作品に特に注釈を入れる必要もないと思うが、オレがどんな具合にそれらの作品を観ていたのか、ここでざっくりと書いておこう。


アレハンドロ・ホドロフスキー/『エル・トポ』
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カルト映画界最強のボスキャラ、アレハンドロ・ホドロフスキーは、オレが最も敬愛して止まない映画監督の一人である。映画『エル・トポ』 の暴虐かつ甘美な映画世界はこの宇宙に於いて唯一無二、これを超えるカルト映画はもはや人類終焉まで現れないのではないかとすら思う。もう「つべこべ言わず、観ろ」としか言えない凄まじい、そして素晴らしい作品なのだ。「ミッドナイト・ムービー」がこの作品から始まった、というのも至極うなずける。ジョン・レノンミック・ジャガーアンディ・ウォーホールが絶賛した事でも知られるが、映画を観て気に入ったジョン・レノンがこの上映権を買い取り、昼間に普通に公開したら大コケした、という話には笑ってしまった。ドキュメンタリーではホドロフスキーの解説を見る事ができるが、何を喋っても胡散臭くてホントにオレこの人大好き。


ジョージ・A・ロメロ/『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
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この作品についても何も言う事は無いだろう。ゾンビ映画の原点であり最高傑作であるこの作品は、後に多くのゾンビ映画を生み出し、ロメロ自身も数々の傑作ゾンビ映画を製作することになった。映画はモノクロだが、これはソリッドな映像効果を狙ってあえてカラーで撮影しなかったのだという。この作品は公開当時に進行していたベトナム戦争への批判が込められていることは多くの方がご存じだろうが、「ミッドナイト・ムービー」それ自体にも、「従来的なアメリカへの幻滅」 が底流していることがこのドキュメンタリーで指摘されている。即ちミッドナイト・ムービーは強力なカウンター・カルチャーであったということだ。それにしてもまだ存命中のロメロが快活に作品解説する姿を見られることがまた有難いドキュメンタリーだ。


ジョン・ウォーターズ/『ピンク・フラミンゴ

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実は今回紹介された映画の中で唯一観ていないのがこの作品。う~んやっぱさあ、犬のウンコ食うのは観たくないよ~!それとスノッブな臭いがしてどうも苦手なんだよなあ。まあ1回ぐらい観るべきな気もするが、この年になるともうこういった作品を素直に受け止められるかどうか分らんのだよなあ。とはいえ主演のデヴァインは映画では観ていないのに彼(彼女?)がリリースしたハイエナジー・ディスコ・アルバムは大層好きで昔よく聴いていた。ドキュメンタリーでは監督ジョン・ウォーターズが顔を出しあれやこれや解説していたが、オールバック痩身ちょび髭(つけ髭らしい)のルックスがひたすらインチキ臭くて、喋り方すらとことん怪しく、実はちょっと気に入った。


ペリー・ヘンゼル/『ハーダー・ゼイ・カム
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映画ファンの方には今回のラインナップの中で一番馴染みが薄いのがこの作品じゃないだろうか。映画『ハーダー・ゼイ・カム』はレゲエ・シンガー、ジミー・クリフを主演とし、ジャマイカ人映画監督ペリー・ヘンデルが、ジャマイカ初の長編映画として製作したレゲエ映画なのだ。物語は貧困にあえぐ地方出身青年が都会に出てきたもののやはり食う事が出来ず犯罪に手を染める、といったものだが、これはそのままジャマイカの現実そのものであり、それを最高に素晴らしいレゲエ・ミュージックをバックにして綴ってゆくのだ。レゲエとはリゾート・ミュージックではなくゲットー・ミュージックでありレベル・ミュージックである、そのことを集約したのがまさにこの作品なのだ。まあ実の所物語自体は一本調子で演出も稚拙ではあるが、時代を超えて現在も輝き渡るサントラの素晴らしさに牽引された作品ではある。ドキュメンタリーではこの作品公開と同時にアメリカで巻き起こったレゲエ・ブームに触れ、一時代を築いた作品の重要性を示唆している。


■リチャード・オブライエン/『ロッキー・ホラー・ショー

はい。みんな大好き『ロッキー・ホラー・ショー』です。これも何も説明のいらない作品だよね。ドキュメンタリーで解説するのはこの映画の監督ジム・シャーマンではなく、元となったミュージカルの脚本・作詞・作曲を担ったリチャード・オブライエン。その彼により「ロッキーホラー」がどのように始まり話題を呼びそして映画化され、さらに多大なるカルト人気を得ることになったかが語られてゆく。白熱する「ロッキーホラー」人気はファンによる劇場でのコスプレ、歌って踊って大騒ぎしながら鑑賞する上映会へと発展し、こういった鑑賞方法のまさに嚆矢となった画期的作品なのだ。オレも30年以上前劇場で観た時に、鑑賞中の日本の「ロッキーホラー」ファンたちがちょっとしたパフォーマンスを交えながら映画を楽しんでいたのを思い出してしまった。その時に笑ったのは、上映前に「スクリーンにモノを投げないでください!」とアナウンスが入った事。誰かやったんだな!?


デヴィッド・リンチ/『イレイザーヘッド
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ドキュメンタリーの最後に紹介されるのはデヴィッド・リンチ、作品は彼のデビュー作『イレイザーヘッド』。ドキュメンタリーでは一般上映では鳴かず飛ばずだったこの作品を観た「ミッドナイト・ムービー」系の劇場オーナーが、「この作品には何かある」と作品を買い付け、深夜劇場で公開したところジワジワと観客数を増やし、最終的に真のカルト名作であることを証明してみせたことが語られる。この映画のヒット後のリンチの活躍を思うと、「ミッドナイト・ムービー」オーナーによる"発見"が無ければ現在のリンチの活躍も無かったのだな、と思わされた。また、リンチが「製作資金が非常に少なかった為、ドアノブを回して部屋に入るまでのシーンに一年半かかった」なんて語っていてちょっと笑った。日本公開時もちょっとした話題作だったが、実はオレはその時に観てあまりの訳の分からなさに激怒した記憶がある。あまりにも腹が立ったのでもう一度観た。そうするとなんと「あ、そういうことだったのか」と描かれているものが多少なりとも理解できた。そして涅槃の彼方で蠢いているかの如き映像がクセになってる自分を発見した。その蠢いているモノを「なんだろう……なんだろう……」と注視していることがスリリングだったのだ。こうしてリンチ・ファンが一人出来上がったという訳である。

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