ハウス・オブ・ザ・ドラゴン〈シーズン1〉(ドラマ)
『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン(HotD)』はあの大河ファンタジー・ドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ(GoT)』の前日譚となるドラマだ。
原作はジョージ・R・R・マーティンの『炎と血』を基にしており、舞台は『GoT』の約200年前、ドラゴンを駆り七王国を統べたターガリエン家が、壮絶なる内戦〈双竜の舞踏〉を経て滅亡するまでを描いたものになるらしい。物語それ自体は『GoT』が15世紀イングランドにおける封建諸侯による内乱「薔薇戦争」を題材としたように、この『HotD』では12世紀イングランド王国における「無政府時代」と呼ばれる後継者争いを題材にしたものなのだという。
『GoT』はオレも実にハマったドラマで、その波乱に満ちた全8シーズンをまんじりともせずに完走したクチだ。ラストエピソードこそ世間では相当に評判が悪く、オレもかなりがっかりさせられてはいたが、総体としてみるならハイファンタジードラマの決定版として後世まで語り継がれるであろう素晴らしい完成度を誇っていたと思う。だからこの『HoD』も視聴を愉しみにしていた。
『HotD』と『GoT』がまず違うのは、『GoT』が七王国それぞれを俯瞰的に描き、その分膨大かつ複雑な人間関係を表出させていたのに対し、『HotD』ではなによりターガリエン家のお家騒動を求心的に描き、人間関係も限定的に描かれているという部分だ。その物語は王の娘であり女王の座にいるレイニラの一族と、王妃であるアリセントの一族との、血に塗れた後継者争いである。つまり男権社会の権力闘争であった『GoT』と比べるなら、この『HotD』では女性を中心とした権力闘争へとシフトしている部分が目新しく特徴的なのだ。
また『GoT』がその冒頭からロバート・バラシオン王逝去による「鉄の玉座」奪取を狙う壮絶な七王国内乱を描いた物語であるのと違い、『HotD』では50年に渡る国王ジェへアリーズ1世の統治によりいわゆる「平和ボケ」した王国が描かれることになる。なにしろこの国王ジェへアリーズ1世というのが付和雷同型の日和見爺で、こいつの煮え切らない態度が後々に陰惨極まりない禍根となって王土を騒乱へと導くことになるのだ。言うなれば「最初に掛け違えたボタンが最後まで仇を成す」というのがこの物語なのだ。
細かい内容は特に書かないが、なにしろ『GoT』譲りの「胸糞展開」は相変わらずで、1話目から結構ゲッソリさせてくれるが、もちろんこれは回を追うごとに厭らしさが倍増し、胸糞大好き『GoT』ファンなら溜飲が下がること必至であろう。そもそも原作者ジョージ・R・R・マーティンの小説自体胸糞展開だらけで、オレは『HotD』『GoT』の原作は読んではいないが、幾つか読んだマーティンのSF短編はどれもこれも厭らしい胸糞に溢れた作品だった。もはや蛇の道は蛇としか言いようがない。
他にあれこれ書くと『GoT』と違って最初っからドラゴンがガンガン大量に登場し大盤振る舞いを見せるのがなにしろ楽しい。オープニングムービーは『GoT』より血腥いが主題曲が一緒なのですぐドラマに入っていける。最初に「ターガリエン家のお家騒動を求心的に描いた」とは書いたがこれは多分シーズン1までの展開で、後のシーズンではウェスタロス大陸の全王家を巻き込みながら血と死と破壊に塗れた壮大かつ凄惨な物語へと突入してゆくのだろう。これからどれだけ胸糞展開がエスカレートしてくれるのか、そして何シーズンまで続いてそれを観なければならないのか、今から楽しみである。