Garnierの新譜を聴きながらあれこれ思った


最も好きなDJは?と聞かれたら Laurent Garnierと答えるだろう。オレが初めてGarnierの音源を聴いたのは1994年、K7からリリースされた「X-Mix-2: Destination Planet Dream」だった。このDJ-Mixアルバムはデトロイト・テクノの名曲が乱舞するあまりにも美しい珠玉の名作であり、そしてDJとはその長い長いプレイの中に音楽で作られたドラマを展開するものなのだ、という事を初めて知らされた1作でもあった。特にクライマックスで炸裂するGalaxy 2 Galaxyの「Journey Of The Dragons」からRhythim is Rhythimの「Icon」へと繋がれてゆく選曲は今でも鳥肌が立つほどドラマチックだった。

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Galaxy 2 Galaxy - Journey Of The Dragons


その後何度かGarnierのプレイを実際目にすることが出来たが、バラエティに富み飽きさせない選曲と、腰が強くバイタリティ溢れるDJプレイは、いつ観ても感服させられるものがあった。特に今は無き六本木のクラブYellowで、深夜から始まったGarnierのプレイを楽しんでいたら、気付いてみると朝の9時になってもまだ終わる気配を見せずにDJが続いており、そして踊っているこちらもまだまだ何時間だって踊り続けていられそうな高揚感と幸福感に包まれていたという体験は、今でも忘れることが出来ない。
その素晴らしいGarnierのDJプレイはこれまでリリースされている幾つかのMixCDで聴く事が出来るのだけれど、実はGarnierのオリジナル・アルバムというのは今までどうも面白いとは思えず、Garnierってナニ考えてんのかなあ?などと不思議に思っていた。決して駄作というわけではないが、その不純物の混じったようなもやもやと澱んだ複雑な音が聴いていてどうにも捉え所が無かったということなのかもしれない。
しかし2006年に発売されたベスト・アルバム「Retrospective 1994 - 2006」を聴いてみたら、選曲のバランスのせいなのかGarnierの目指す音世界というのが実にトータルに耳に飛び込んできたのである。また、Garnier自身が作る音は暗く重いものが多いが、これがDJセットの中に組み込まれて鳴らされるとなかなかにスリリングな輝きを見せるのだ。クラブ・ミュージックというものを知り尽くした男が変化球で遊びを見せるとこういった音になるという事なのだろう。

Retrospective 94-06

Retrospective 94-06

そしてGarnierのニュー・アルバム「Tales Of A Kleptomaniac」である。ここでもGarnierはもやもやとした澱んだ音を展開するが、そのリズムは多様であり、テクノをはじめダブ、ヒップホップ、ドラムンベース、ハウスなどの音がGarnier流の手腕で料理されている。勿論決して付け焼刃なリズムなどではなく、リズムが多様であってもやはりそれはGarnierの音なのだ。そしてこの「Tales Of A Kleptomaniac」はこれまでのGarnierのオリジナル・アルバムの中でも最も聴きやすく完成度も高いものとなっているといっていいだろう。
その中でやはり注目すべきはM5「Last Dance @ Yellow」だろうか。Garnierは昨年閉店したYellowでのラスト・アクトを務めたが、この「Last Dance @ Yellow」はその夜の一瞬をスケッチした曲なのだろう。疾走感と緊張感に満ちたこの曲を聴くたび、オレはYellowで友人達と踊っていた幾多の夜を思い出す。Yellowはもう無くなってしまったけれど、またいつかどこかGarnierのDJが響く場所で、オレは朝まで友人達と踊ってみたいと思うのだ。

■Tales Of A Kleptomaniac / Laurent Garnier

Tales of a Kleptomaniac

Tales of a Kleptomaniac

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