- 作者: 西原理恵子
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2007/07/25
- メディア: 単行本
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ところで今回はいつもの『毎日かあさん』とは違う展開になっている。それは一度離婚し、その後復縁した旦那、”鴨ちゃん”の死である。今年3月に癌で亡くなられた”鴨ちゃん” こと鴨志田穣氏はフリーの戦場カメラマンとして東南アジアを中心に戦中・戦後の混乱と貧困の中にいる人々を追い続けてきた。西原と鴨ちゃんは雑誌企画の海外取材で出会い、そして結婚したが鴨ちゃんのアルコール中毒を理由に一度破綻している。鴨ちゃんの人物像は西原マンガの中にその一端もあるのだろうけれども、そこは当然西原流ギャグの脚色がされているだろう。しかし『アジアパー伝』などの彼の著作で見ることの出来た”鴨志田穣”は、発展途上国の悲惨さを憂い、そしてまたその国で貧しいけれども逞しく生きる人々と交わる事により、自らの立ち位置を確認し続けてきた熱血漢であった。
しかし平和な日本でそれを何一つ疑問を持つ事も無く享受しまくっているオレのような人間は、逆に彼をそこまで突き動かすものとはいったいなんだったのだろう、と不遜ながら不思議に思っていたのだ。彼のアルコール中毒は世界の不幸を自らにも背負い込んでしまったその苦痛を紛らわす為にあったのではないか。そういった彼の真摯さこそが彼自身の不幸だったのではないかとさえ思ってしまうのだ。だとすればそれは不条理な事であり、彼のその”救われなさ”が哀れで堪らない。世界の不幸は、彼の肩にはあまりにも重かったろう。そしてそれはもとから彼一人の手ではどうしようもないものだったはずだ。しかしそのような中で、病魔に襲われながらも最後に彼の心を救ったのが妻と子のいる《家族》だった。ここで家族礼賛などするつもりは無い。家族である事から不幸になってしまう人々だっているからだ。しかし、少なくとも、家族というものによってしか救済されない魂というものもあるのだ、ということは、西原のマンガからひしひしと伝わってくるのだった。