《サンドマン》の物語からのスピンオフ作品、それがこの《デス》になります。
《デス》は《サンドマン》の姉、そしてこの世界の『死』を支配する女性ですが死神を連想させるような暗さ陰気さは微塵も無い若々しく聡明な女性として登場します。《サンドマン》本編ではその所業として様々な死を人々に与える《デス》ではあるけれど、それは無慈悲なものというよりは、ひとつの宿命として淡々と行われるのです。生のひとつのサイクルとしてただ死があるだけなのだ、と言っているかのように。
さてこの作品ではその《デス》が主人公となるのですが、スピンオフということで最初はちょっとした小品程度の作品かな、と思っていたらさにあらん。《サンドマン》とは雰囲気を全く異にしたモダン・ファンタジーの傑作に仕上がっていました。
《デス》は命あるものの実感を知る為に100年に一度肉体を持ってこの現象界に現れます。そして彼女は生の実感を感じることの無い少年と知り合うのです。そして…という物語なのですが、極ありふれた日常描写の積み重ねの中に、まるで靴の中の小石のようにチクチクと死の影が見え隠れし、様々な人の死が語られるプロットはさすがです。そしてそこに異質なものとして投げ込まれる魔術的な存在の対比が奇妙なリアリティを持って描かれます。
しかしなによりこの物語を魅力的にしているのは、《死》を司る者が《生》を得てその素晴らしさを満喫するという描写でしょう。《死》そのものであるからこそ《生》の何たるかを知るというこの逆説は、生きるということの深い洞察を感じさせます。個人的には、「手袋の少女」のエピソードがお気に入りでした。