小惑星衝突後にタイムスリップした人々が見たものとは〜『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』 高山和雅

天国の魚
書店に行ったら高山和雅の新刊コミックが出ていてびっくりした。え、まだ活動してたんだ!?ということで早速その本『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』を購入、高山独特のSF世界にどっぷり浸ることができた。あー全く健在じゃないか高山和雅。
高山和雅のデビュー作『ノアの末裔』(1986年)は個人的には隠れた名作SFコミックのひとつとして長く心に残っている作品だ。ある日、一部の人間たちを除いて世界中の人々が眠りから目が覚めなくなる。目覚めた人たちは何が起こったのか?どうすればいいのか?という問いの答えを見つけるために街を彷徨うのだ。今は亡き「ガロ」から出版された、という部分でもあまり人の目に触れることの無かった不世出の傑作だった。
しかしオレは高山和雅の名をしっかり心に刻み付け、その後リリースされた『パラノイア・トラップ』『電夢時空』『奇相天覚』など短編・長編を見つければ購入して読み耽っていた。高山は絵やストーリーテリングに癖があったし、決して万人受けするものは無いにせよ、そのSF的ヴィジョンの展開の在り方、ユニークさは実に確固たるもので、どこかの出版社でいつか大ヒットを飛ばすことをオレは夢見ていた。そんな高山の新作を目にして嬉しくない訳がない。
この『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』は小惑星衝突により地球規模の大災害が起こりつつある日本のどこかの孤島から始まる。島に残された主人公たちはそこで過去に残された核シェルターに逃れ危機を回避しようとしていた。果たして小惑星は地球に衝突、激しく揺れるシェルターの中で気を失った主人公たちが目覚めると、なんとそこは1970年の新宿だった…というストーリー。
こうして人類滅亡テーマと思わせながらタイムスリップSFとして始まるこの物語、実はこの後もさらに二転三転、〇〇が〇〇して〇〇が登場し、舞台は宇宙へと広がってハードSFの様相すら垣間見せる、というとんでもない展開を見せるのである。そうしたSF作品でありながら、物語の根幹となるのは決して結び付き合えない人と人の心の悲しさであったりするのだ。もはやこの作品が作者・高山が持てる力を振り絞って描いた渾身の一作であることは間違いない。
流行に全く囚われず、コアでありオールドスクールなSFであることにこだわり続けるこの高山の作品は、多くのSFファンに読んでほしいし、そうしてまた高山が素晴らしい作品を生み出す素地ができたら、オレはなによりも嬉しい。傑作ですよ。

天国の魚

天国の魚

ノアの末裔

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電夢時空 (デラックスコミックス)

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電夢時空2 RUNNER (アフタヌーンKCデラックス)

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