ショーン・タンのCGアニメ『ロスト・シング』と絵本『夏のルール』

■ロスト・シング / ショーン・タン

ロスト・シング DVDボックスセット
この映像作品『ロスト・シング』は、オーストラリアのグラフィック・アーチスト、ショーン・タンが1999年に出版した同名の絵本を基に製作されたCGアニメです。絵本のほうの『ロスト・シング』は以前にレビューを書いたことがあるので、そちらのほうから粗筋を紹介してみましょう。

夏のある日、"ぼく"が海辺で出会った"そいつ"は、なんだかへんちくりんな姿の迷子だった――。この『ロスト・シング』は、名作絵本『アライバル』でその名を知らしめた絵本作家ショーン・タンが2000年に発表した実質的なデビュー作です。

海辺で出会った"そいつ"は、見上げるような大きさの、生き物とも機械ともつかない存在です。その姿は真っ赤なダルマストーブにカニの鋏とタコの足をくっつけたような格好をしていて、大きさの割にはなんだか愛嬌があり、とてものほほんとしたヤツなんです。"ぼく"はどこから来ていったいなんなのかまるでわからない"そいつ"がきっと迷子なのだろうと思う事にし、家に連れて帰って"そいつ"の処遇に考えあぐねます。

『ロスト・シング』は「少年の日の夏の思い出」といった物語の中に、無味乾燥な現実世界への皮肉と、その世界を想像力でもって潤いのあるものに変えてゆく力の大切さを描いています。CGアニメとなって蘇った『ロスト・シング』は原作に忠実に作られています。しかし、アニメーションになり声と音楽が入ったことでより情感が高く、また個々のキャラクターが生き物のように動き回ることによって、その不思議な世界を深く味わうことのできる作品となっています。本編は16分と短いのですが、短い分繰り返しその世界を堪能することができるでしょう。この作品はその完成度の高さから第83回アカデミー賞短編アニメーション部門受賞作品となりました。
また、このDVDでは映像特典として68分にわたるインタビュー、コメンタリー、カット・シーンなどが挿入されていて、さらに「あの想定外の変な生き物は何?」というタイトルの小冊子が添付されています。ショーン・タンの描く不思議な生き物のスケッチが掲載されたこの小冊子は、きちんとしたハードカヴァーで製本されており、この1冊だけでも価値のあるコレクターズ・アイテムになっていて、ファンの方には嬉しいし、作者のことをよく知ら無い方にもその不思議な世界のガイドブックとなることでしょう。

http://www.youtube.com/watch?v=kikA9pUAnWs:movie:W620

ロスト・シング DVDボックスセット

ロスト・シング DVDボックスセット

ロスト・シング

ロスト・シング

■夏のルール / ショーン・タン

夏のルール
そしてこちらはショーン・タンの最新邦訳絵本です。既訳である『遠い町から来た話』(こちらでちょっとだけ紹介しました)で活躍した兄弟がまた夏の日の不思議な冒険を繰り広げる、といった物語になっています。

去年の夏、ぼくが学んだこと。赤い靴下を片方だけ干しっぱなしにしないこと。カタツムリを踏んづけないこと。合言葉を忘れないこと。

まだ世界の全てが不思議に満ち溢れていた少年時代の、その「不思議さ」を可視化したのがこの絵本ということができるでしょう。その世界はどこまでも広く、時間は永遠で、暗闇には巨大な精霊が隠れ住み、生物と無機物の境界は曖昧で、想像したものはすぐさま形となって出現するのです。そんな子供時代の心を在り様を、子供の頃に見ることができた世界の姿を、絵本の形で描いたのがこの『夏のルール』です。




夏のルール

夏のルール