日出処の天子(1〜7巻 完結) / 山岸涼子 (白泉社文庫)

これは「マンガ読み」を自称する人間なら絶対読まなければならないマンガですね。
超常の技を使い、異界の様を幻視する能力を持つ厩戸王子(うまやどのおうじ)即ち若き日の聖徳太子と、彼と魂を何処かで共有してしまった蘇我氏の青年・毛人(えみし)とのホモセクシュアルの臭いのする愛憎劇、そして飛鳥時代を舞台にした朝廷とそれを巡る豪族達の権力闘争。
なにしろ聖徳太子は「少女と見紛うばかりの美少年」でやっぱりというかホモセクシュアルだしテレキネシス使うし「苦界奥底の魑魅魍魎」は見ちゃうし性格は人でなしだし、嫉妬心が強かったりするし、それでいて果てしなく深い孤独の中に生きていたりする訳です。日本の古代を舞台にしながら、ここで描かれるのはシェイクスピアを思わせるようなひたすらドラマチックな悲劇であり、群像劇であり、政治劇であるのです。そのドラマの人間を見る目の深さ、無慈悲さに読むものは打ち震える事請け合いですよ。
作者、山岸涼子は歴史物、バレエ物のほかにオカルティックな物語を得意としますが、これは人間の業や狂気を視覚的に描くときに、オカルティックな要素を持ち込んだほうがより直接的に人間の感情・感覚に訴えるからなのだと思う。決してホラー作家ではないし、オカルトの為のオカルトを描いたりはしないんです。
オレの青年期にはこの山岸涼子萩尾望都、そして大島弓子が少女漫画のバイブルであった。男性作家には絶対に描けない精神の高みを表現することの出来る素晴らしい才能だと思った。この人たちのマンガを読むと、「男は絶対勝てない」と思ったもの。