フランス/ベルギー製作のドタバタ・タイムトラベルSF映画『フューチャー・ウォーズ』

フューチャー・ウォーズ (監督:フランソワ・デスクラック 2022年フランス・ベルギー映画

メルトダウン寸前となったパニック状態の原子力発電所に突然一人の男がテレポートしてくる。彼は「2555年の未来から危機を救いにやってきた」と告げた。しかしその男を追うようにして強化装甲に身を包んだ二人の兵士が出現、彼らは《時空警察》を名乗り、彼らもまた危機を救いに未来からやってきたのだという。敵対して見える両者はどちらが本当の救済者なのか!?2022年フランス・ベルギー製作によるタイムトラベル映画、『フューチャー・ウォーズ』はこんなシリアスなオープニングから始まりますが……実はドタバタ・コメディだったのです!?

《物語》2555年――地球は終末の危機に瀕していた。人類を救うため、一人のタイムトラベラーが立ち上がる。彼に課せられた使命は2022年に戻り、世界を変えた“ある事件”を阻止し、歴史を変えること。しかし、歴史の改変を阻止すべく、時間警察の追手が迫っていた…。果たして、男は未来を変えることは出来るのか。

映画『フューチャー・ウォーズ』公式サイト|5月10日公開

いやー、オレも映画が始まるまではすっかりシリアスなSF作品だと思ってたんですが、まんまと騙されてしまいました。冒頭に書いたエピソード自体相当にベタベタなギャグ交じりで展開しており、おまけに《時空警察》を名乗る連中の言う事を信じた原発職員が、結局原発メルトダウンさせてしまうんですね。こうして原子力発電所は大爆発を起こし、空には禍々しい巨大なキノコ雲が立ちのぼるのです!……いや、いくらメルトダウン起こしたからってちょっと大げさすぎねえか……。

実はこの映画、アリスという名の環境保護活動家の女性が主人公となります。彼女の父親は有力議員であり、メルトダウンを起こしたにもかかわらず再び新たな原子力発電所を誘致しようとしていました。アリスはこれを阻止するため、スキャンダル材料の入った父のパソコンを盗もうとしますが、そこに現れたのが最初に登場した謎の男=《訪問者》と《時空警察》、さらに騒動に気付いた父でした。

格闘の末アリスと父は《訪問者》により2555年の未来に拉致されます。そこはアリスの父が誘致した原子力発電所の事故により人類の半数が死滅し、おまけにゾンビが闊歩する世界だったのです!《訪問者》はこの破滅を阻止するため過去へタイムトラベルしていたのです。一方、時間改変を一切認めない《時空警察》は、《訪問者》の行動を妨害しようとしていました。

で、この辺りで「なんか変な話だなあ」と思えてくるのですよ。原発事故は恐ろしいものですが、いくらなんでもそれだけで人類の半数が死滅したりしないでしょう。物語では「(なんらかの連鎖反応による)破滅的な放射性雲」のためだ、としていますが、なんだか曖昧過ぎて説得力がないんですね。そしてそこは「2555年の未来」ということらしいのですが、破滅的な原発事故から500年間ずっと地球は壊滅状態だというのも変な話だし、にもかかわらずタイムマシンだけはきちんと開発されている、そういう科学的発展はしている、というのも辻褄が合わないんですね。だったらその科学で人類をどうとでも救済できていたでしょう。

一番訳が分からないのは《時空警察》の行動です。「時間改変は恐ろしいタイムパラドクスを起こすので断じて許せない!」と《訪問者》を亡き者にしようとしますが、もう既に最悪の出来事は起こっちゃっている上に、明日にも全人類が滅亡するかもしれないという時に、いったい何言ってんだこいつら?って首傾げちゃいますよ。

こういったチグハグさっていうのは、多分『ターミネーター』みたいな映画を撮りたかったけど『ターミネーター』と差別化できる物語を全然思いつけなかったってことなのではないでしょうか。地球滅亡の原因が核戦争だったらまだ少しは説得力があるんですが、でも核戦争って『ターミネーター』でやっちゃってるし、そや!おんなじ「核」で原子力発電所ってのはどや!って思っちゃったんでしょうね。それに現在盛んなエコだクリーンだのの環境保護活動をからめて今っぽく見せたのがこの映画の設定なんでしょう。

意外と一般欧米人の核や原子力への認識ってこの程度な気もして、だからこの映画のような設定が普通にまかり通ってしまうのかもしれなせん。でも過去にも近年にも核やら原発やらでアレコレあった日本の住民としては、なんだか安易だなあ、と思えてしまうんですよ。それとドタバタコメディ展開に関しては、フランス産コメディに顕著な泥臭さが延々続くので途中で飽きてきてしまい、後半笑えなくなってきた、という事も挙げておきましょう。