Soft Landing / Art School Girlfriend
2017年から活動するArt School Girlfriendはウェールズ出身のミュージシャン、プロデューサー、シンガーソングライターであるPolly Louise Mackeyのプロジェクト名だ。ベルベット・アンダーグラウンド、PJハーヴェイ、ニック・ケイヴ、パティ・スミスといった音を聴きながら育ったPollyは、シューゲイザーバンドのフロントマンとしてのキャリアを持ち、女性主導のファウンデーションFMでラジオ番組の司会を務め、インディペンデント映画の音楽も手掛ける多彩さを持つ女性だ。その彼女の新たなステップとなるArt School Girlfriendは、欲望、クィア・アイデンティティ、そして幻滅といったテーマを追求し、デジタルとアナログの両方の感性を引き出しながら、日常の出来事の喜びを反映することを目指している。アルバム『Soft Landing』は彼女の2枚目のアルバムとなり、エレクトロニックポップ、インディーロック、シューゲイザーといったジャンルに分類されるだろう。そのサウンドは透明感と浮遊感に満ち、往時のトレイシー・ソーンを思い出させる気だるげなヴォーカルと、シューゲイザーテイストの疾走感溢れるエレクトロニック・サウンドで構成されたものとなっている。今後の活躍が楽しみなアーチストだ。今回のオススメ。
trip9love...??? / Tirzah
Tirzahはイギリスのシンガーソングライター、Tirzah Mastinのプロジェクト名となる。今年リリースされた『trip9love...???』はTirzahによる3枚目のアルバムだ。アルバムは長年の友人であり制作協力者でもあるマイカ・リーヴァイが参加し、彼らの出身地である南ロンドンとケントのさまざまな場所で録音された。その音はインディーロック、R&B、エレクトロニック、エクスペリメンタル、そしてトリップホップといったジャンル横断的なものと言えるだろう。脱力的なピアノのループがインダストリアルなドラムパターンの上に霞んでは浮かび上がり、ボーカルには深海で鳴り響くようなリバーブが掛けられる。その歌詞は現実と想像上の愛に関するさまざまな感情が表現され、繊細で空虚な歌声でもって歌い上げられるのだ。
For That Beautiful Feeling / Chemical Brothers
デジロック界の大人気グループ、ケミカル・ブラザーズが今年9月にリリースした4年ぶり、10枚目のスタジオ・アルバム。ケミカル・ブラザーズは初期の頃のアルバムはよく聴いたが、その後興味が失せて聴かなくなってしまった。どうもデジロックってロック成分で大雑把にされたエレクトロニック・ミュージックって感じで好きじゃないんだよな。あと大箱向けの大衆的な賑やかさも今一つ乗れない要因。今作も相変わらずのデジロック路線だが、大雑把なりに聴き流せるセンスはあるので何度か聴いてみたが、やっぱり飽きるのが早いなあ。
My Brutal Life / The Black Dog
1989年から活動するイギリスの電子音楽グループThe Black Dogは1990年代初頭のインテリジェント・テクノの先駆者とも呼ばれる存在だ。先ごろリリースされた彼らの最新アルバム『My Brutal Life』は、さながらしとど降る雨の街を歩いているかのようなアンビエント・サウンドとなる。『My Brutal Life』の舞台となるのはイギリスの都市に立ち並ぶ無骨なブルータリズム建築であり、その街々に住む人々の息遣いである。深い幻想性とディストピア的ヴィジョンが行き来し、イギリスの近代的都市景観を染めるグレーとベージュの滑らかなコンクリートブロックを彷彿されるサウンドがこのアルバムなのだ。
Techxodus / Speaker Music
Speaker Musicはアメリカの作家でありプロデューサーであるデフォレスト・ブラウン・ジュニアによるプロジェクトだ。デトロイト・エレクトロのレジェンドDrexciyaに影響を受けた彼のアルバム『Techxodus』はテクノロジー、ブラックネス、レジスタンスをテーマに掲げ、SF的なアフロフューチャリズムを追求した作品となっている。その音はトラップとジャズドラムを融合させたリズム、深海の様なドローン、アフリカ戦士の雄たけびのサンプリング、上昇するノイズとディストーションのラッシュ、遠くから響くサザン・ゴスペル・ボーカルなどがテクスチャーされたマジカルなエレクトロニック・ミュージックを構成している。