ツルハシ持った不死身のジジイv.s.ナチス戦車隊!?/映画『SISU/シス 不死身の男』

SISU/シス 不死身の男 (監督:ヤルマリ・ヘランダー 2023年フィンランド映画

怒らせた奴は最凶殺戮マシーンだったッ!?

『96時間』イコライザー』『ジョン・ウィック』と、破竹の勢いで世界を席巻する(?)「最凶殺戮マシーン」ジャンルの最新作、それがフィンランドからやってきた「不死身のツルハシじじい映画」、『SISU/シス 不死身の男』だッ!?

(ちなみにタイトルの「SISU」とはダークサイドに落ちたフォースの使い手のことではなくフィンランド語で「不屈の精神」みたいな意味合いを持つ言葉なんだとか。)

主演の殺戮マシーン爺さんを「レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース」のヨルマ・トンミラ、対するナチス戦車隊中尉に「オデッセイ」のアクセル・ヘニー。監督・脚本は「ビッグゲーム 大統領と少年ハンター」のヤルマリ・ヘランダー。

《物語》時は第2次世界大戦末期、ナチスフィンランド焦土作戦を展開しておったのです。おりしもその日、街を焼き払ったばかりのナチス戦車隊が帰還しようと荒野を走行していたところ、馬に乗ったなんだかババッチイ爺さんとすれちがったんですな。「おいそこのきたねえ爺さん、持ってるもん全部置いてけやプゲラ」と爺さんに詰め寄るナチスの皆さん!そこで爺さんカッチーンと来た!「うるせえチンカスども、おめえらみんなナマスにしたるわ!」そしてあっという間に血の海に沈むナチスの皆さん!そう、なんとこの爺さん、フィンランド軍でも最凶の狂戦士として知られる特殊部隊員だったんです!(一部脚色あり)

クソ共は皆殺しだ!

はい、『SISU/シス 不死身の男』です!なにしろこの主人公爺さん、強い、強すぎるッ!?文字通りほとんど不死身です!水に沈んでも吊るし首にされても死にません!その死ななさ具合と言ったらブギーマンやジェイソンみたいなスラッシャーホラーのレベルです!ある意味鬼や悪霊みたいな超自然的存在、またはハリケーンや大地震みたいな自然災害級の存在です!こんなのと戦って勝てるわけない!?

とはいえこの爺さん、「ほとんど不死身」ではありますが決してターミネーターロボコップみたいな機械化人間じゃありません。きちんと生身の体を持っており、ナチスの攻撃に生傷だらけ、血も流せば怪我もする、痛みに苦悶し気絶状態になったりもする、そんな全身ボロ雑巾みたいにボロボロになりつつも決して戦いを止めない、「不屈の精神」で戦い抜く男なんですよ!そんなもんですから痛いシーンも満載で、それでも立ち上がる爺さんに、こぶし握ってエールを送りたくなってしまうじゃあーりませんか!?

そんな爺さんですが不屈の精神だけで戦っているわけではありません。強靭な肉体とツルハシを始めとする様々なアイテムを使って敵を追い詰めてゆくんです。そんな爺さんの戦い方のイロハをここに抜き書きしてみましょう。

弾丸を弾く鍋を持っている(キャプテン・アメリカかよ!?)。

ナイフ一撃で頭蓋骨貫通。

100キロぐらいの鉱石担いで全力疾走。

地雷は投げて使う。

ツルハシで戦車と戦う(さすがに笑いました)。

ツルハシで飛行機にアタック(さすがに笑いました)。

針金で傷を縫合する(傷口はガソリンで洗います)。

……ええっと……やっぱり人間じゃありません。

暴れ回る無敵の鬼神!

もはや人間離れしている爺さんですが、ある意味彼の存在は祖国フィンランドを蹂躙したナチスドイツ軍に復讐をもて仇なすフィンランドの精霊、祖霊、鬼神の暗喩的存在、それらが人間に姿を借りた超自然的存在だと見て取ることもできます。フィンランドに伝わる戦争の勇者たちがこの爺さんのモデルだといいますから、即ちそれら伝説的な勇者を代表したのがこの爺さんであり、この爺さん自身が伝説の体現なんです。

物語は基本的に果てしなく続く荒野だけを舞台としています。それはある意味抽象的な舞台であるという事ができます。だからこそこの物語は第2次世界大戦、そしてナチスドイツという敵の存在を離れ、ひとつの神話的物語であるという見方もできるんです。フィンランドの「不屈の精神」を肉体化したこの爺さんは、即ち長きに渡る歴史を通じたフィンランド魂、フィンランドの反骨それ自体を現したものだともいえるんじゃないでしょうか。

こういった「抽象化された神話性」という部分から、この作品には『マッドマックス:怒りのデス・ロード』と通じるものを感じます。同時に派手なフォントの踊る章立てされた作劇の進行の仕方や、苛烈でありながら時としてユーモラスにも見える殺戮の描写からは、タランティーノ映画を思わす部分もありました。「怒らせた奴は最凶殺戮マシーン映画」は数ありますが、この作品が一つ抜きんでたものとして見えるのは、こういった単なるエンターティンメント作品に終わらない部分があるからではないでしょうか。

(詳しくは書かないけど、↓このシーンも最高にアガリますよ!)