ゴジラはとっても良かったがドラマがマイナスな映画『ゴジラ−1.0』

ゴジラ−1.0 (監督:山崎貴 2023年日本映画)

終戦後の焼け跡をさらに焼き尽くすゴジラの物語

ゴジラ生誕70周年記念作品とかいう触れ込みのゴジラ映画『ゴジラ−1.0』を観ました。なんだか変わったタイトルですが「ゴジラマイナスワン」と読むのだそうです。いったい何がどうマイナスワンなのか?と言うと、太平洋戦争の惨禍により何もかもがゼロになってしまった日本が、ゴジラの襲撃でさらに「マイナス」になってしまうほど大被害を受けてしまう、といった意味のようですね。

ゴジラ映画は小さな頃によく観ていましたが、段々子供っぽく思えてきて、1975年公開の『メカゴジラの逆襲』以降は劇場でゴジラ映画を観ていないんじゃないかな。2016年公開の庵野秀明監督による『シン・ゴジラ』はとても素晴らしい作品でしたが、公開当時は「どうせゴジラだろ」ぐらいに思って劇場では観ていないんですよ。まあオレにとってはゴジラというのはその程度しか思い入れの無い存在です。

そんなオレがなぜこの新作を観ようと思ったのかというと、『シン・ゴジラ』があまりに良かったので、次の作品も期待してみてもいいんじゃないかと思ったからなんですけどね。とはいえ邦画は苦手だし山崎貴監督の映画作品はまるで観たことが無かったので若干不安だったのですが、結局その不安は大きく当たってしまいました。今回のブログは物語の内容に触れる部分が多そうなので、ネタバレが気になる方は読まないでください。

【物語】太平洋戦争末期。特攻隊員の主人公・敷島浩一(神木隆之介)は特攻を嫌い南の孤島にある飛行機整備施設に逃げ込むが、そこにゴジラが上陸。敷島はゴジラとの戦いを放棄し、それにより多くの仲間を死なせてしまう。そして戦後。不甲斐ない自分を責め続ける敷島だったが、ひょんなことから闇市で助けた若い女と孤児の乳飲み子と同居する羽目となる。なんとか日々の生活が立ち直ってきたある日、ゴジラが関東に上陸し、復興途中の東京を火の海に変える。

主人公のウジウジグダグダ振りにイラッとさせられまくり

まずこの映画、冒頭の南の孤島のシーンから既にゴジラがバーンッ!と全身見せて暴れ回っちゃう部分から「いやちょっとこの演出はないだろ」と思ったんですが、そこから後もずっと拙い演出の連続です。なによりまず主人公の敷島の造形がまるで駄目。仲間を死なせただなんだとウジウジグダグダと悩み、いつも煮え切らない態度の主人公に相当イラッときました。その悩める敷島の演技にしても力みまくりで絶叫し過ぎ、あまりにド定番な邦画式演技メソッドに何度も失笑してしまいました。

過去へのトラウマがあったとしても終戦後の厳しい生活には歯を食いしばって対峙していかなければならないでしょう。そうしなきゃ生きられないしそれが生き延びるってことでしょう。にもかかわらずいい年こいてエヴァンゲリオン碇シンジ君みたいにウダウダと泣き言を言っている主人公に何の魅力も感じないんですよ。修羅場潜ってきたくせに何ヘニョヘニョしてんだよ、男なら覚悟決めろよ全く、って思っちゃいますよ。

そしてこんな主人公が若い娘・典子(浜辺美波)と孤児との疑似家族めいた生活を始めるんですが、なんだか描き方が変。主人公と典子がくっつくのかと思ったらくっつかない。何年も一緒に暮らしていてお互い思いやっている描写もあるにも関わらず寝ない。心を通わせたならやっぱり寝るでしょう。でも寝ないんですよ。寝ればいいってもんじゃないですが、愛やら情感やらを描くんだったら寝てない、って演出はなんだか変でしょう。そしてこの二人、ほとんど丁寧語で会話しているのも気持ち悪い。心を開けない主人公を描きたかったのでしょうが、やっぱり不自然ですよ。要するにこの映画、愛すらもきちんと描いていないんですよ。

ゴジラはよかったんだがドラマがマイナス

とまあこんな「とっても生温くて繊細なボク(そして興味があるのは自分だけ)」を描き続ける演出に呆れかえり、そんな主人公が迷走するプロットに中盤で眠くなり、なんだかギクシャクした舌足らずなシナリオになんじゃこりゃ、と思って観ていたら、これって全て「泣ける映画」にしたかったから、というのが最後に判明するんですね。おおい「泣きゴジ」だったのかよコレ、っていうかゴジラ観に来て泣こうって思うのかあ?そこじゃないだろ?なんかもう邦画の酷い所を煮詰めたような映画でしたね。

それとこれは根本的な事なんですが、舞台設定が終戦前後である意味がまるで感じられなかったんですよ。この映画の基本的なテーマとなるのは「生きろ」ってことみたいなんですが、「生きろ」って言うんなら戦争を生き延びた人たちはみんな既にとても酷い目に遭っていて今を懸命に生きてるわけだし、そこにゴジラというもう一個の過酷なドラマを持ってきて「生きろ」って言うのっておかしくないか?普通にきちんと戦争の惨禍を描けばいいだけだろ?で、この「生きろ」っていうテーマも、結局最後に主人公のトラウマの克服という形で矮小化されるもんだからタチが悪いんですよ。ホント自分大好きなんだなコイツ。

とはいえゴジラは良かったんですよ。ゴジラを巡る様々なSFXはとても良かった。破壊シーンも殺戮シーンも禍々しくて狂暴できちんと破壊神してた。ゴジラそれ自体の解釈もこの作品独特で、庵野ゴジラとはまた違う新鮮さがあった。クライマックスのゴジラ殲滅作戦にしても、そんな都合よくいくものかあ?とは思ったけど、これはこれで騙される価値のあるスペクタクルがあった。つまりこの『ゴジラ−1.0』というタイトル、「とても素晴らしいゴジラの足を引っ張るマイナスのドラマ」という意味だったという事だったんですね!お後がよろしいようで!(いいのか?)