最近ダラ観した韓国映画あれこれ

『楽園の夜』

楽園の夜 (Netflix映画) (監督:パク・フンジョン 2020年韓国映画

敵対組織の幹部を襲撃した暴力団員テグが、ほとぼりを冷ますため韓国・済州島に身を隠すが、裏切り行為により刺客を送り込まれ命を狙われるという物語。監督・脚本が『新しき世界』『The Witch 魔女』のパク・フンジョンという事で観てみた。知らなったのだが舞台となる済州島は韓国のリゾート地として知られているらしく、だからタイトルが『楽園の夜』という事なのだろう。しかし物語は決して楽園ではなく殺戮の荒野として描かれることとなるのだ。リゾート地であるにもかかわらず妙に寒々とした光景として描かれるのもそのためなのなのだろう。こうした物語構成は北野武映画『ソナチネ』と非常に似通っており、おそらく念頭に置いて作られたと思われるが、作品の感触はそれぞれに違うものがあった。『ソナチネ』が涅槃だとしたらこの『楽園の夜』は虚無世界だ。主人公がこの島で知り合った女ジェヨンとの、最後まで微妙な距離感を保ちつつ仄かに湧き上がっていた想いにとても切ないものがあった。あと敵暴力団ボス役のチャ・スンウォンはオレは好きな俳優だなあ。それと水刺身が美味そうだった。

ガール・コップス (監督:ジャング・ダウォン 2019年韓国映画

それぞれにワケアリの女性警察官3人が閑職に就かされ不貞腐れていた所に性犯罪に遭った女性が駆け込み助けを請うが男性警官はまるで取り合わず、「じゃあ私らでやるしかないじゃない!?」と秘密捜査を展開するというアクション・コメディ。ただしコメディとは書いたが進行する事件は女性を食い物にしたおぞましい犯罪で、しかもそれを男性警官たちが「検挙しても評価されない」という理由で歯牙にもかけないという歪んだ構造が根幹にあり、ある意味男性社会の傲岸さと蔑ろにされた女性たちの怒り、という非常にシリアスなテーマを扱った作品でもある。なにしろ活躍する女性警官たちの強力さが実に楽しく頼もしく、特に主人公刑事ミヨンの、男なんかに負けてたまるか可愛げなんかあってたまるかと鬼の形相で犯人たちを追い詰める姿には惚れ惚れさせられた。いわゆる男女格差を描いた作品として注目されるべき作品だ。

キングメーカー 大統領を作った男 (監督:ビョン・ソンヒョン 2021年韓国映画

第15代韓国大統領・金大中と彼のフィクサーだった男との関係を題材に、60年代韓国の熾烈な選挙戦とその裏側でしのぎを削る男たちの情念を描いた政治ドラマ。主演に数多くの賞を受賞している名優ソル・ギョングと『パラサイト 半地下の家族』のイ・ソンギュン、監督に『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』のビョン・ソンヒョン。選挙戦の物語と書くと固そうだが、根っこにあるのは「理想の実現のためにはどんな汚い手を使ってもいいのか、それとも倫理的であるべきなのか」というジレンマである。選挙活動に奔走するキムの前に現れたチャンデは一般市民ながら狡知に長けた男で、様々なアイディアを出しキムに政界の階段を上らせるが、次第にチャンデは過激な方策をとり始める。しかしチャンデは決して悪辣な男というわけではなく、キムと党を勝利に導きたい一心だったのだ。キムは理念の為に選挙に勝とうとするが、チャンデにあったのは目的化した勝利だ。魑魅魍魎蠢く政界内部の描写もあるが、基本的には男同士の悲しい心のすれ違いを描いた物語だった。

ザ・キング (監督:ハン・ジェリム 2017年韓国映画

金と権力の虜となり非道の限りを尽くす悪徳検事たちの姿を描く社会派作品(ちなみに韓国ドラマ『ザ・キング 永遠の君主』とは別)。検事とは本来正義を成すべき職業であるにも関わらず、この物語の主人公らは徹底的な上昇志向に取り憑かれ、あらゆる汚い手を使って相手を蹴落とし叩きのめし、手にした金で酒と女と贅沢な生活に溺れ、我が世の春を謳歌している。もうどいつもこいつもクズだらけ、クズの品評会、クズの満漢全席というひたすら心胆寒からしめる物語だ。韓国政治の実情は知らないのだが、かの国では政権それ自体も検事が鍵を握るのらしく、官僚や暴力団と癒着し、金を動かし人を操り、時には殺人まで教唆して思うがままに政情を操る様などはもはや悪の秘密結社状態である。とはいえ奢る者久しからず、こんなクズどもに反逆の狼煙が上がる部分で救いがある。物語では韓国第16代大統領ノ・ムヒョンの失脚工作を企てる様子も描かれるが、ノ・ムヒョン大統領といえば2013年の韓国映画『弁護士』において青年弁護士時代のノ・ムヒョンの胸を熱くさせる活躍を見せられていただけに、これにも暗澹たる気持ちにさせられた。