最近ダラ観した韓国映画あれこれ

『チョ・ピロ 怒りの逆襲』

チョ・ピロ 怒りの逆襲 (Netflix映画)(監督:イ・ジョンボム 2019年韓国映画

ゲスな悪徳警官チョ・ピロがゲスな悪徳企業の起こした事件に巻き込まれ、事件の証拠を握るワケアリ女子高生ミナの行方を追うが!?というノワールストーリー。チョ・ピロはどうにも小物臭の漂うオッサンで、悪徳企業のチンピラにはいつもボコボコにされ、ミナには毎度逃げられ、「悪徳警官だけどイザとなったら男を見せる!」みたいなピリッとした所など微塵もない。ミナもまたごく普通の女子高生で、ただただ事態に翻弄されるばかりだ。こうしてありがちな展開を全て放棄し、どんどん悪い方向へ辛い方向へとなだれ込んでゆくというのが逆に凄まじい。さらに2014年に韓国で起きた「セウォル号沈没事故」が物語の核として存在しており、なお一層重く暗い影が垂れ込める。ここまで追い詰められた主人公に起死回生の手段などあるのか?というギリギリの所まで引き絞られてからが見どころとなるが、それでもやるせなく辛い話なのは確かであった。

野獣の血 (監督:チョン・ミョングァン 2022年韓国映画

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釜山の外れにある小さな町を舞台に、都市ヤクザと地元ヤクザたちが入り乱れ、利権を巡って血みどろの抗争を繰り広げるという物語。主人公ヒスはヤクザ稼業からのリタイアを考えていていたが、ずるずると抗争に巻き込まれながら次第に頭角を現してしまうという皮肉な展開にゴッドファーザー味を感じた。全体的に各々の派閥による腹の読み合い探り合い、陰謀、策略、結託、裏切りを描き、登場人物も多く派閥同士の繋がりがころころ変わるので理解に苦労した。原作小説があるという事だが、その内容をシナリオに事細かに盛ってしまった為の分り難さのような気がした。物語は舞台となる地方都市の情景に呼応するがごとく暗くどんよりとして、登場するヤクザたち誰もが田舎ヤクザならではのちんまりした小物感を漂わせ、そんな彼らの織り成すドラマにもカタルシスは乏しいのだが、この索莫とした空気感こそが当時の韓国地方都市の抱える倦怠と虚無だったのかもしれない。

狼たちの墓標(監督:ユン・ヨンビン 2021年韓国映画

2018年平昌オリンピック直前、大規模開発で沸くリゾート地を舞台に、地元ヤクザと利権にたかる新興ヤクザとの血で血を洗う抗争を描いた物語。地元ヤクザは篤い義理人情*1を持ち町から信頼を得られていたが、そこに義理人情など一切ない狂犬の如き新興ヤクザが乗り込み激しく対立するのだが、義理人情に篤かろうがなかろうが結局はヤクザ同士、そこに正義だ悪だがあるわけではない。それよりもこの物語の本質にあるのは、今までと変わらない古くからの生活様式や人間関係で十分に満ち足りていた土地に、そこで生活する者の感情を無視した資本構造が持ち込まれ、彼らの生活をぶち壊しにしてしまう事を象徴的に描いたものなのではないだろうか。それはつまり、オリンピックの名目で行われる大規模開発が決して住民の利益にならずただ大企業へと吸い込まれてゆくだけという構造への憤りがこの物語なのだと思えた。とはいえドスや鉄パイプでガシガシ殺し合いするヤクザ描写はそれなりに楽しかった。

ザ・コール (Netflix映画)(監督:イ・チュンヒョン 2020年韓国映画

ヨソンの元に掛ってきた電話は、過去からの電話だった。しかもそれはかつてこの家に住んでいた女性ヨンスクからのものだったのだ。そこから物語られるおぞましい因縁の数々……というSFホラー映画。見どころはこの物語が「歴史改変SF」である、という部分。まず主人公ヨソンの過去に起こった悲しい事件を止めさせることで、ソヨンの現在を改変させる。次に過去に住むヨンスクがその後至る恐ろしい事件を回避させることでヨンスクの運命も変えさせるのだ。これだけならWinWinではあるが、そうは問屋が卸さない。なんとヨンスクには隠された別の顔があり、ここから恐ろしい物語が爆走してゆくのである。「時間SF」として捉えるならタイムパラドックスの面で矛盾点もあるが、それを差し引いてもなかなかに練られたシナリオでサスペンスもたっぷり、非常によくできた作品だった。それにしても、以前観た韓国映画『時間回廊の殺人』もこれと同じように一軒家を舞台とした「時間SFホラー」だったが、両方ともSF設定として十分に面白いのに、これになにがなんでもホラー要素をぶち込んで血塗れにしたがる部分に韓国映画らしい業を感じたな!

*1:「義理」と「人情」には相反する意味がありますが、「義理人情」とした場合は「人間関係や社会的関係を維持するためのルールと思いやり」を指します。