リュック・ベッソン印のビューティー・アサシン映画『ANNA/アナ』を観た

■ANNA/アナ (監督:リュック・ベンソン 2019年アメリカ・フランス映画)

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例のアレによる緊急事態宣言が解除され、「久しぶりに映画でも行くか」と公開情報を漁っているオレの目に飛び込んできた映画タイトルが『ANNA/アナ』。なにやら女殺し屋が主人公の映画なのらしい。「女殺し屋・・・・・いまどきありふれてんなあ・・・・・・それに『アナ』ってなんだよ?『雪の女王』かよ?シアーシャ・ローナンの出てた『ハンナ』のパチモンかよ?え、監督リュック・ベンソン!?いやこりゃ観なきゃだわ!」とオレは秒速でチケットを予約したのだ。

リュック・ベンソン、『グラン・ブルー』や『レオン』で注目を浴びたものの、その後の活躍は評論家にはあまり芳しくない印象を受ける。所詮ハリウッドのモノマネ監督、薄っぺらい作風、B級アクション専門製作者、なんてイメージがベッソンには付きまとってないか。実のところオレも特に注目すべき監督ではないと思っていた。しかしここ最近では『LUCY/ルーシー』は評判ほど悪い作品ではないと思ったし『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は最高に面白かった。そしてオレは気付いたのである、「オレ、実はベッソン映画好きなんじゃないか?」と。『フィフス・エレメント』とかもサイコーだったじゃないっすか?

今作『ANNA/アナ』はなにしろ女殺し屋が主人公となるアクション映画である。舞台は80年代、KGBの殺し屋として訓練を受けた女アナは、パリでファッション・モデルとして活躍しながらその裏で諜報・暗殺活動を続けていた。しかし過酷な任務の連続にアナの心は次第に疲弊し、さらにCIAが彼女にスパイ疑惑を持ち始めていた。追い詰められたアナの打って出た手とは?

さてこの『ANNA/アナ』、「女殺し屋」が主人公なれど、確かに今更感が強いのは否めない。そもそもベッソン出世作ニキータ』がそうだったし、『レオン』にもその匂いを感じる。同工異曲の作品は他にも沢山あり、『ハンナ』もそうだったが『コロンビアーナ』やら『ウォンテッド』やら『アトミック・ブロンド』やら『レッド・スパロー』やらと枚挙に暇がない。そんな作品をまたぞろベッソン自身が撮るとはよっぽどイマジネーションが枯渇したか柳の下の二匹目を狙ったか、どちらにしろまるで新鮮味が感じないと言えない事もない。

しかしだ。前述の『ハンナ』にしても『アトミック~』、『レッド~』にしても、実は結構楽しめたしオレは大好きな作品だ。「女殺し屋」ジャンルは作りようによっては面白いジャンルなのだ。例えば「カンフー映画」と一口に言ってもその内容は千差万別であるように、「女殺し屋」というジャンルの中でその内容を差別化し面白さを見出せばいいだけの話なのだ。

それではこの『ANNA/アナ』は「女殺し屋ジャンル」としてどう差別化を図っているのだろう。それはまず「殺し屋はスーパーモデル」という設定だ。有り得んわ!アホやん!しかしそれがいい。映画ではモデルを営む主人公とそれを取り巻くファッション業界とがコミカルに描かれ、モードの世界の煌びやかさも相まって見た目がなかなかに楽しい。なにより、今作でアナを演じたサッシャ・ルス自身がロシア出身のスーパーモデルなので、そのルックスとモデル身長を生かしたアクションとが実に魅せるのだ。彼女がむさ苦しい男どもを相手に鉄壁の無双振りを見せるシーンは当然今作のハイライトとなる。いやーオレもサッシャ・ルスにフライングニードロップぶちかまわれた後のボディーシザーズを喰らってみたい・・・・・・(ウットリ)(おい)。

もうひとつは作品全体を通して頻出する時制の巻き戻しだろう。シークエンスごとに「3ヶ月前」だの「1年前」だのと時間が巻き戻され、「実は現在こういったことが起こってるのは、過去にこんな出来事があったからなんだよ!」と細かなネタバラシをして物語に驚きを与えようとしているのだ。観る人によっては「鬱陶しい!」と苦言を呈するかもしれないし、評論家筋なら「馬鹿の一つ覚え」と冷笑するだろう。ただ実際観終わってみると、「全編フラッシュバックで構成する実験だったのかな」と思わされ、それは大成功とまでは言わないが、作品に独特の風味を与えており、目先の変わった「女殺し屋ジャンル」となっていることは確かだと思う。

もうひとつは脇を固める演者の面白さだろう。主演にモデル出身の新人を起用している分、脇をしっかりした俳優でまとめてあるのだ。まずはKGB上官の役を勤めるヘレン・ミレンだ。今作では黒縁眼鏡にブラウン系の髪の色で、パッと見ヘレン・ミレンに見えず、驚かされた。狡猾で抜け目無いKGB職員のキャラはヘレン・ミレンには当たり役だったと思う。他にもKGBの同僚をルーク・エバンス、CIAエージェントをキリアン・マーフィーが演じ、それぞれに強い存在感を与えることに成功している。細かいところでは『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』で主演だったアレクサンドル・ペトロフがアナの元恋人役で出演していたりする。

確かにいまどきKGB対CIAの抗争が物語の背景ってなんじゃいな?とは思うが、これはフランス人監督が撮っている事を思い出して欲しい。NATO同盟国の出身ではあろうが、リュック・ベッソンにとってKGBもCIAも絵空事であり、政治的意図も皆無で、どちらの陣営にも描写は加担しない。要するにこれは無邪気なコミックであり、それがリュック・ベッソン映画の皮相的な部分ではあるが、だからこそ他愛なく楽しめるという側面も持っている。で、それでいいんじゃないかな。

( ↓ 予告編はちょいネタバレ含まれてるので注意!)

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