ウラジーミル・ソローキンの『テルリア』を読んだ

■テルリア/ウラジーミル・ソローキン

テルリア

21世紀中葉、世界は分裂し、“新しい中世”が到来する。怪物ソローキンによる予言的書物。“タリバン”襲来後、世界の大国は消滅し、数十もの小国に分裂する。そこに現れたのは、巨人や小人、獣の頭を持つ人間が生活する新たな中世的世界。テルルの釘を頭に打ち込み、願望の世界に浸る人々。帝国と王国、民主と共産、テンプル騎士団イスラム世界…。散文、詩文、戯曲、日記、童話、書簡など、さまざまな文体で描かれる50の世界。

ウラジ-ミル・ソローキンといえば現代ロシアを代表するポストモダン作家であり、オレ自身は『青い脂』しか読んだ事がないのだが、そこではSFとも寓話ともつかない異様なヴィジョンに満ちた物語が描かれていた。そのソローキンの2013年に発表した作品がこの『テルリア』となる。

舞台は近未来のロシア/ヨーロッパ、そこでは戦争によりそれまでの国家が多様なイデオロギーを持つ数10の群小国家へと分裂していた。資源の枯渇によりハイテクとローテクが混在した世界では国家体制も退行し、あたかも中世の如き社会に小人や巨人や亜人といったバイオテクノロジー生物が闊歩し、それ自体がグロテスクな童話の如き世界と化していたのだ。

ただしこれら異形と化した未来にはひとつのキーワードが存在する。それは「テルルの釘」と呼ばれる覚醒物質だ。この釘を頭蓋に直接打ち込むことにより人智を超えた能力と認識を得る事が出来るとされているのだ。そしてその「テルルの釘」の原産国が「テルリア」というわけなのである。作品は各々がほぼ関連性の無い50の章に分かれた物語で描かれ、それらがひとつのパッチワークとなって幻想の未来世界の全体像を露わにする仕組みとなっている。

とまあそんなお話なのだが、読んでいて正直、疲れた。「近未来の異形化したロシア/ヨーロッパ世界」の50に断章化されたヴィジョンは確かに相当の想像力を感じる事が出来るし、そのグロテスクな描写や退行した世界の御伽噺じみた不気味さは十分に伝わってくるのだが、なにしろ50の章それぞれで登場人物も内容も文体も違うので、章が変わるたびに脳内でいちいち情景をリセットしなければならず、「物語の流れに乗って読む」ことがし難かったんだよな。おまけに章そのものの一つの物語がある訳ではなく、あくまでも起承転結の無い一つの点景が描かれるだけなんだよ。それが疲れた原因。せめて連作短編の形で充実した物語の連鎖によって全体を構成するとかしてくれてたらなあ。

とはいえこれはオレの頭が付いて行かなかっただけで、読んだ方の評判は結構イイみたいだから、まあオレには合わなかったということなんだろうなあ。面白かったのは近未来を舞台にしながらも決してSF小説って感じではなく、しかも物語の中心になるのが覚醒物質ということで、斜陽の未来にドラッグだけが崇め奉られる、ある意味とてもペシミスティックなヨーロッパ像を描いた作品だと言う事もできるかもしれない。

テルリア

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