映画『移動都市/モータル・エンジン』は宮崎駿でスチーム・パンクなSFファンタジーだった!

■移動都市/モータル・エンジン (監督:クリスチャン・リヴァーズ 2018年アメリカ映画)

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映画『移動都市/モータル・エンジン』は邦題の通り「移動する都市」を巡って描かれるSFファンタジー作品である。脚本・製作にピ-ター・ジャクソン、監督にPJ映画のストーリーボード・アーチストだったクリスチャン・リヴァーズ。

まずね。「”移動する都市”ってなんすかソレ?なんで都市が移動しなきゃいけないんですか?」って思うじゃないですか。なぜ都市は移動するのか。それは他の移動都市を食って成長するためなんです。「ちょっと待ってください。他の都市を食べるってなおさら判んないんですけど」とあなたは言うだろう。いや、確かに何言ってのか判らないと思うけど、オレにもさっぱり判らないんだよ……。

《物語》舞台は最終戦争で文明が滅び去ってから千年後の地球。その世界では都市が巨大な駆動装置に乗って地上を這い回り、他の移動都市を探し当て貪り食うことで資源を得ていた。その中で最も強大かつ巨大な移動都市ロンドンで、今、世界を再び滅ぼさんとする最終兵器が開発されようとしていた。これを阻止するべく、「反移動都市同盟」が反旗を翻したのだった。

……いやあ、粗筋書いてすらさっぱり判らない話だ……。しかしですね。「訳が判らない」にもかかわらず、荒廃しきった大地と、そこを這い回る移動都市の圧倒的なまでに禍々しい姿と、世界のあちこちで蠢きまわる怪物のような姿に進化した異形のテクノロジーのヴィジュアルがとことん異界感をあおってゆく、そんな異様さ奇想天外さを楽しむ作品であるわけなんですよこの『移動都市/モータル・エンジン』は!

いってみれば「SFファンタジー」における”ファンタジー”の側面が強いと思われるこの作品、決して魔法や魔物が登場するわけではないのですが、世界全体を覆うスチーム・パンクなビジュアルとそのテクノロジーの在り方が既にして非科学的で、にもかかわらず一つの世界観として確立され完成しているという部分で、まさにこの作品は「(SFな)ファンタジー」ということが出来ましょう。

なんたってアナタ、映画に登場する最大移動都市ロンドンは、幅約1500m、奥行き約2500m、高さ約860mもありまして、これが超巨大キャタピラにより時速160kmで走行するとかいうんですよ。そもそもこんなもんどうやって作ったの?自重で壊れちまうんじゃないの?動力源は何でどうやって動かしてんの?とかなんとかいろいろ思いはしますが、「いやそういうものだから」と言われたら返す言葉もありゃしません。この辺りがファンタジーのファンタジーたる所以ですが、納得ずくで見るならこれはこれでアリな世界なんですよ。

オレ的に「移動都市」の概念を合理的に考えてみようとするなら、かつて他国を侵略・植民地化することで版図を広げ、生き物のように成長していった帝国主義国家のあり方を、そのまま「生き物のように移動し続け成長する都市」という形に暗喩したものがこの「移動都市」という存在なんではないかと思いましたね。そしてその最強の移動都市というのが古き時代に世界を我が物にせんと版図を広げていった大英帝国の首都ロンドンであるという部分に如実にそれを感じますね。

で、なにしろ世界観ありきの作品なんですが、お話それ自体はどんなかというと、まず悪役が移動都市ロンドンの邪悪な指導者ヴァレンタイン(ヒューゴ・ウィーヴィング)。こいつは世界征服のための最終兵器を開発しています。そして主人公となるのがヴァレンタインに母を殺され復讐を誓う少女へスター(ヘラ・ヒルマー)と彼女に協力し恋心の芽生える青年トム(ロバート・シーアン)。この二人が「反移動都市同盟」と結託してヴァレンタインの野望を打ち砕こうとする、という冒険譚ということになるんですね。

そしてこのお話というのがですね、見事に宮崎駿作品してるんですよ!

まず移動都市ってぇのがハウルの動く城じゃないですか。移動都市の最終兵器は古代科学の遺物を利用していてさらにその威力が風の谷のナウシカ巨神兵天空の城ラピュタの空中都市そのもの!世界大戦の後の世界ってのも両作品を思わせます。反移動都市同盟は空に都市を築いてますがこれがまたラピュタっぽく、同盟の女性空賊アナとその仲間たちが飛行船や戦闘機を駆って戦う様はラピュタのドーラとその一味を思わせます!戦いの鍵を握るアイテムが実はアレだったとかもラピュタっぽい!へスターにしつこく付きまとうサイボーグ「シュライク」はラピュタに出てくるロボット並みの強力さを兼ね備えています。

お話それ自体はちょっと古臭く感じる、というか大昔の冒険小説みたいで洗練さには欠ける。主人公の青年トムがひょろひょろした優男で魅力が無い、ヴァレンタインの令嬢キャサリンやその他の登場人物もいてもいなくてもお話が変わらないなど、配役に交通整理が必要に感じましたね。とまあ他にもあちこち難を感じる部分はあるんですが、なにしろスチーム・パンクした異形なテクノロジーの描き方はとてつもなく凄い。この圧倒的な映像効果だけでも「もう一度見たい」と思わされてしまう作品で、そういった部分においてはオレ的に「アリ」な作品でしたね。

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移動都市 (創元SF文庫)

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