映画『Dr.パルナサスの鏡』はロンパールームだった!?

Dr.パルナサスの鏡 (監督:テリー・ギリアム 2009年イギリス・フランス映画)


Dr.パルナサスの鏡』製作中、主演のヒース・レジャーが急逝し、困窮極まったテリー・ギリアムは鏡にお伺いを立てることにしたのである。
「鏡よ鏡よ鏡さん、皆に会わせてくださいな〜そ〜っと会わせてくださいな!
あら!あなたはジョニー・デップちゃん!デップって言ってもクリーム状のソースじゃないから要注意ね!
あら!そこにいるのはジュード・ロウちゃん!ら〜ら〜ら〜らららっら〜ヘ〜イジュ〜〜〜ド!
そしてそこにいるのはコリン・ファレルちゃん!お目目の上になんで毛虫飼ってるの!?」
…こうして鏡のお導きによりヒース・レジャーの代役俳優3人が集結し、かくして『Dr.パルナサスの鏡』は目出度く完成したのであった…。

テリー・ギリアムの撮る映画といえば猥雑でキッチュなガジェットがこれでもかと画面を覆いつくす映像派の監督というイメージが強く、そのデザイン性に驚かされる反面、随分ガチャガチャしているよなあ、というのが正直な感想だ。同じように凝った美術を駆使するティム・バートンがそれなりに洗練されよくまとまったセンスを持っているのに比べ、ギリアムの描く映像は灰汁が強く毒もふんだんに含まれる。その趣味が大いに生かされた『バロン』や『バンデットQ』あたりがギリアム作品の真骨頂ということが出来るのだろうが、個人的にはギリアム趣味の押さえ気味だった『12モンキーズ』や『フィッシャー・キング』のほうがまとまりがよくて好きな作品だったりする。根強い人気のある『未来世紀ブラジル』は全体的に未整理な感触があるし、『ローズ・イン・タイドランド』や『ラスベガスをやっつけろ』などは毒が強すぎてオレはあまり好きではなかった。この人の作品にはどうもムラが多いような気がするが、意外と本人もムラッ気な人なのかもしれない。

この『Dr.パルナサスの鏡』も良い意味でも悪い意味でも実にギリアムらしい映画だといえる。ロンドンの町を巡る旅芸人パルナサス博士(クリストファー・プラマー)とその一座の物語なのだが、その演目のひとつである「イマジナリウム」の鏡は、その中に入った者の願望の世界を見せる、という不思議なものであった。この鏡の中で繰り広げられる映像ファンタジーと共に、パルナサス博士と悪魔のニック(トム・ウェイツ)との千年に渡って行われてきたある"賭け"の秘密が物語の主題となる。鏡の中のファンタジー世界はギリアム版『アリス・イン・ワンダーランド』といった所だが、さすがにイイ感じで毒が振りまかれており、期待通りの映像を見せる。

だが、この鏡がなんなのか?が今ひとつよく判らない上に、Dr.パルナサスが永遠の命を得ながら何故不思議な鏡を持って旅芸人をして彷徨っているのかが判らなかったりする。ひとつの寓話として捉えればいいのだろうが、寓意として受け止めるべきものが、なにしろギリアムらしくとっ散らかっている為に、伝わり難いのだ。そして登場人物たちの行動も、あたかもギリアムの作品そのもののようにムラッ気に満ち、捉えどころが無かったり説明不足だったり映画の流れとしては無駄に感じる演出があったりする。映画としての完成度は決して低くはないのだが、描かれる様々なもののバランスが悪く、それらの枝葉を刈り込むことをせずに、やはり今回もギリアムらしい未整理な作品だという気がしてしまう。だがこれはギリアムのいつも爆走してしまう情熱の、その暴走ぶりなのだと言えない事も無く、またまたギリアムらしいとも思えてしまう。災難の多い監督だという話だが、この人自身が災難を呼んじゃうんだろうなあ。才能があるのに難儀してしまう、つくづく因業な監督であることを再認識してしまう作品であった。