アオってんじゃねえェ!/ 映画『アオラレ』

アオラレ (監督:デリック・ボルテ 2020年アメリカ映画)

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タチの悪いおっさんに延々あおり運転された挙句、命まで奪われそうになる!?というスリラー映画『アオラレ』でございます。タチの悪いおっさん役をオスカー俳優ラッセル・クロウ、アオラレてイヤーンな目に遭っちゃう女性を『移動都市 モータル・エンジン』のカレン・ピストリアスが演じています。監督デリック・ボルテは『レッド・バレッツ』「幸せでお金が帰るわけ」などの作品があるようですな。

《物語》主人公レイチェルは車で職場に向かう途中渋滞に巻き込まれ、気が立っていた所を青信号でも動かない前の車にクラクションを鳴らしてしまう。するとその車はレイチェルを執拗に追い掛け回しはじめ、一時は巻いたもののガソリンスタンドに立ち寄った際に追いつかれ携帯電話を奪われる。レイチェルの車には男の携帯が置かれており、男から電話が入る。「お前の個人情報は全て知った。これからお前の知合いを次々に殺し回ってやる」そう、このおっさん、心底イカレたサイコパス野郎だったのだ!?そしてレイチェルとおっさんとの地獄の追跡劇が始まる!

車を運転していたらイカレたドライバーに目を付けられ延々追い掛け回されるスリラー映画と言えばスピルバーグ監督の出世作『激突!』が特に有名でしょう。こういったキ印野郎に追い掛け回される同行異曲の作品はあれこれあり、『激突!』に影響を受けたという『ロードキラー』や『ブレーキダウン』、それに『ヒッチャー』あたりもこの範疇に入るかもしれません。ついイライラしがちな道路状況、車という孤独な密閉空間、隣の車が何をしでかすか分からないというパラノイアなどがこういった作品を生みヒットさせているのでしょう。

実はこの作品に登場するイカレたおっさん、被害妄想の固まりみたいな男な上に、別れた女房を殺してきたばかりの殺人者で、「もう何もかもどうでもいいんだああああ!」とすっかり自暴自棄になっており、その挙句に「無敵の人」になっちゃった!という経緯があるんですな。物語ではあおり運転するだけではなく主人公の知合いを次々に襲っては殺してゆき、もはやジェイソンやブギーマン状態のサイコパスシリアルキラーです!

しかし『激突!』やこれらホラー映画と違うのは、このおっさんが「死」を具現化した象徴的だったり超自然的だったりする存在なのではなく、「相当イカレてはいるがあくまでもその辺のおっさん」という、具体的で現実的な生身の存在であるということなんです。

つまりこの作品は車を運転する者なら誰もが遭遇したことがあるに違いない「あおり運転」を切っ掛けとして、さらにその先に待つかもしれない事態を描くことにより、非常に現実性を帯びた恐怖を生み出すことに成功しているんですね。ここまでイカレたおっさんはそうそういないかもしれませんが、実際あおり運転による死亡事故は多数起きていて、この作品はそれにフィクショナルな肉付けをしたものだといえるのですよ。「こんなキチガイがすぐそばにいるかもしれない」、それがこの作品の怖さであり面白さだと言えるでしょう。

まあしかし、それにしても主人公レイチェル、寝坊し過ぎだし、スマホに暗証番号掛けないし、バッグの中も車の中も整理つかないほど乱雑だし、メンドクセエヤツに出遭ったら適当にやり過ごすべきだし、離婚協議中という家庭の事情はあるにせよ、あれこれ迂闊過ぎたのも確か。たいがいのトラブルってこういった迂闊さのせいで起こったりするものなので、日ごろの注意が必要だなあとちと思わされました。

ところでオレ、この作品の予告編を観たとき、「お、ラッセル・クロウが出てる!セクハラ事件で映画界干されたらしいけど復活したんだな!是非観なきゃ!」と思っちゃったんですが、皆さんお気づきのように、ホントのところラッセル・クロウはセクハラ事件なんか起こしていないんですね。実はオレ、ケヴィン・スペイシーラッセル・クロウを混同していたんですね……。ラッセル・クロウ並びにファンの皆様、大変失礼いたしました……(ケヴィン・スペイシーは現在ヨーロッパ映画で復活しそうだということです)。