■ワイルド・スピード ICE BREAK (監督:F・ゲイリー・グレイ 2017年アメリカ映画)
■オレとワイスピ・シリーズ
『ワイルド・スピード』のシリーズ8作目となる新作が公開されると聞きオレはお祭り状態だった。『ワイルド・スピード』シリーズ。車に興味の無いオレがここまで好きになるとは思わなかった傑作シリーズである。だが実は白状しなければならないことがある。実はオレはシリーズ5作目となる『MEGAMAX』から観始めたクチだったんだが、この5作目こそ面白く観たけれども、6作目7作目あたりは実に辛い評価を下し、殆ど貶したようなレビューしか書かなかった。そういった意味では当初『ワイスピ』はたいした面白くないシリーズだと思いこんでいたのである。
しかし、数か月前からジェイソン・ステイサムの全作品を観る、というチャレンジをしており(現在ほぼ完了)、その一環としてステイサムも出演している『ワイスピ』シリーズを最初からちゃんと観ようと思い立ったのである。実際の所ステイサムが出演しているのは7作目からなのだが(6作目のラストにはちらりと顔を出している)、この7作目がステイサム出演作にもかかわらず当時は面白く感じなかったで、「シリーズ最初から観れば少しは面白く観られるか?」と思ったのだ。
そうしてたいした期待もせず1作目から観始めたのだけれども、これがびっくり、まずこの1作目から秀作ではないか。それから2作目3作目と順に観ていったが、なにしろもう、シリーズを追うごとにどんどん面白さが増してゆく。そして以前はつまらなかった6作7作目を再び観た時に、オレはいったいどこに目を付けてたんだ?と自分を責めたくなる程の面白さだったのだ。オレはもう、以前心無くシリーズを貶していたことを、シリーズのファンの方にも製作者の方にも土下座して謝りたいぐらいの気持ちだった。
以前中途からシリーズを観た時と、最初からシリーズを観た時の違いというのは、ひとえにもう登場人物たちの背景やシリーズ全体の物語の流れの理解度、さらにキャラクターへの愛着度合いが段違いに違っていたからだと言わざるを得ないだろう。思えばシリーズ中途から観たオレは人間関係をまるで把握していない状態でつまらないとかほざいていたのだ。このシリーズの大テーマとなるのは"ファミリーの結束"だが、それが以前は全く分かっていなかったのだ。そしてその"ファミリー"とは、血縁とはまた違う、人種や立場を乗り越えた「運命共同体」としての"ファミリー"なのだ。
という訳で非常にざっくりとではあるがシリーズ全体を振り返ってみたい。なお粗筋に関してはWikipediaから拝借した。
■『ワイルド・スピード』シリーズ1〜7作
◎ワイルド・スピード (監督:ロブ・コーエン 2000年アメリカ映画)
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- 発売日: 2012/04/13
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ロサンゼルス。凄腕ドライバーのドミニク・トレットは、夜な夜な行われるストリート・レースで荒稼ぎをしていた。そんな彼の前に連続車両強奪事件の潜入捜査の為にロス市警のブライアン・オコナーが身分を隠して現れ、勝負を挑む。やがて二人には友情が芽生え、ブライアンは職務との間で揺れることとなる。
冒頭の人種入り乱れるストリートレースの情景から既にこのシリーズの基本テーマが明確になっている。そこに立ち入る白人のオコナーは既に少数派でしかない。数多の人種が混交してチームとなりそしてファミリーを形成する部分にこのシリーズの面白さが凝縮されている。さらに主人公ドミニクはコソ泥で、物語全体が善と悪といった単純な二元論で語られてはいない。彼が第一とするのはストリートで生き続けてきたプライドであり、身を挺して守ろうとするのはまずファミリーなのだ。つまりドミニクが重んずるのは「仁義」なのである。シンプルでストレートな物語と疾走感溢れるカーチェイスが爽快な秀作だ。
◎ワイルド・スピードX2 (監督:ジョン・シングルトン 2003年アメリカ映画)
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- 発売日: 2009/09/18
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ロサンゼルスの一件によりブライアンはロス市警を追われる身となり、マイアミでストリート・レーサーとして名を馳せていた。だが、一斉取り締まりによりブライアンは敢え無くFBIに御用となってしまう。連行先には旧知の捜査官が居り、ブライアンは犯罪歴の帳消しと引き換えに、国際的マネー・ロンダリング組織への潜入捜査の話を持ちかけられる。
今作ではドミニクが登場せず、ブライアンが主人公として展開する物語だ。しかしそのブライアンも捜査官からお尋ね者へと身を落としており、ここでもやはり「正義の物語」として成立させていない部分が面白い。ドミニクの代わりにブライアンと組むのがローマン・ピアースで、彼のおバカ振りは十分ドミニクの代わりとして物語を盛り上げていた。彼は後のシリーズの常連となる。
◎ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT (監督:ジャスティン・リン 2006年アメリカ映画)
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カリフォルニアの高校生、ショーン・ボスウェルは大の車好きであったが、これまでに2度ストリート・レースで事故を起こし、そしてとうとう3度目を起こしたことで少年院行きの危機となった。ショーンはこれから逃れるため、日本に住む父の元へと引っ越す。そこで同じくアメリカから留学してきたトウィンキーと出会い、ドリフト・レースの世界を知ることとなる。
東京を舞台とし、これまでの常連が誰一人登場しないある意味番外編的なストーリーだが、今作登場のハンは後のシリーズでワイスピ・ファミリーの一員として活躍する。シリーズの中では評価が低いようだが、どうしてどうして、東京が舞台というただそれだけでも十分面白く観ることができる1作だ。そしてこの作品にはシリーズでは余り見られない暗さと翳りが存在する部分も見逃せない。それは主人公の青春ストーリーという部分にもあるのだろう。
◎ワイルド・スピード MAX (監督:ジャスティン・リン 2009年アメリカ映画)
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以前の事件をきっかけに指名手配されたドミニクはロサンゼルスを離れ、ドミニカで燃料タンク車を強奪していた。やがてそこにも捜査の手が忍び寄り、恋人レティを守るために彼女の前から姿を消す。だがその後、ドミニクはレティが殺されたという知らせを妹のミアから聞き、復讐の為にロサンゼルスに戻る。やがてドミニクは、復讐相手の手掛かりとなるニトロ搭載車へと行き着くのだが、そこでマイアミの一件をきっかけにFBIとなったブライアンと鉢合わせる。
ワイスピ・ファミリーが再び集結し、さらに新キャラもファミリーに加わったこの作品は、この後のシリーズの物語展開の重要なファクターがあれこれ盛り込まれているといった点で、ある意味現在のワイスピ・シリーズの原点となる作品と言えるだろう。一時は友情を覚えながらも反目することになったドミニクとブライアンが遂に和解し、そしてここからワイスピ・シリーズの快進撃が始まるのだ。もうひとつ付け加えると、今作から出演するガル・ガドットの美貌だろう。今やガドットといえばワンダー・ウーマンだが、こうして過去作に触れることができるのは僥倖と言うより他にない。
◎ワイルド・スピード MEGA MAX (監督:ジャスティン・リン 2011年アメリカ映画)
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ブラジルのリオデジャネイロに逃亡したブライアンとミアは昔の仲間のヴィンスと再会。麻薬取締局の押収した車の窃盗の仕事をする事になり、そこにドミニクも合流するが、仲間の裏切りにより襲われてしまう。その理由は、ドミニク達が盗んだ車に隠されたリオデジャネイロで最も強い権力をもつ悪徳実業家、エルナン・レイエスの闇金の流れを記録したマイクロチップにあった。
前作でシリーズの下地が出来たワイスピが、凶悪な敵を相手に奇想天外な作戦をド派手に展開し始めるのがこの『MEGA MAX』からと言えるかもしれない。この作品からファミリーのチームワークがさらに重要視され、コソ泥チームから始まったワイスピ・ファミリーがここではもはや精鋭特殊工作員のような働きを見せることになるのだ。そういった部分で『ミッション・インポシッブル』や『007』シリーズと肩を並べる様なスパイ・アクションの様相さえ呈し、現在のワイスピ・シリーズの在り方を決定付けた記念碑的作品ということが出来るだろう。そして今作からドウェイン・ジョンソンが登場し、ワイスピ・ワールドはさらに奥深さを増してゆくのだ。
◎ワイルド・スピード EURO MISSION (監督:ジャスティン・リン 2013年アメリカ映画)
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モスクワにて軍隊が襲撃され、何億円もの価値をもつチップを奪われる事件が発生する。元英国特殊部隊のオーウェン・ショウ率いるヨーロッパを拠点に大きな犯行を繰り返す国際的犯罪組織が関わっており、かねてより追跡していたFBI特別捜査官ホブスは、組織壊滅の協力を要請するため、ドミニクを訪ねる。協力を渋るドミニクだったがホブスに手渡された捜査資料を読み驚く。そこには死んだはずのドミニクのかつてのファミリー・恋人であるレティの写真があったのだ。
これまで北米・南米を舞台としてきたワイスピが、いよいよヨーロッパを舞台としたワールドワイドな展開を迎えることになるのが今作だ。敵も元特殊部隊だの国際犯罪組織だのとその手強さ凶悪さは輪を掛けたものとなり、さすがのワイスピ・ファミリーも苦戦を強いられることになるのだ。ワイスピ・ファミリーと犯罪者集団が奪い合うことになるのは世界を混乱と破壊に追いやることもできるハイテク装置だが、こういった図式も今作からの導入であり、よりワイスピ・ファミリーの戦いが世界の命運をかけたものへと化してゆくのだ。さらに4作目のレティの死をこの作品まで引っ張りに引っ張ってくるシナリオも物凄い。空港を舞台にしたクライマックスの壮絶なアクションは『ダイ・ハード』シリーズさえ超えてしまったのではないかとすら思った。
◎ワイルド・スピード SKY MISSION (監督:ジェームズ・ワン 2015年アメリカ映画)
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DSS本部のホブスの部屋に見知らぬ男がPCをハッキングしていた。男の名前はデッカード・ショウ、元イギリス特殊部隊員で秘密諜報機関にも在籍していた男であり、オーウェンの兄でもあった。デッカードは弟の復讐のためホブスの端末からドミニク一味のメンバーを探知、手始めにホブスに手傷を負わせ去っていく。そして東京に移り住んでいたドミニク一味であるハンを事故に見せかけて殺害し、更にドミニクの自宅に爆弾を送り届け、木端微塵にした。入院しているホブスから情報を手に入れたドミニクは仲間の命を狙うデッカードを打倒することを決意する。
シリーズを追うごとにド派手さを増してゆくワイスピだが、ジェイソン・ステイサム演じるシリーズ最凶最悪の敵が登場するのが今作である。そういった意味で無敵の戦士ステイサムが暴れまわるステイサム映画とワイスピが悪魔合体したようなとんでもない作品が今作だということが出来る。さらにステイサムの背後にはハイテク武器を所持した傭兵軍団がおり、その戦いはより熾烈なものと化す。徹底的な破壊と爆裂が巻き起こるクライマックスなどはもはや市街戦であり、戦争そのものの様相を呈する。しかしワイスピの凄い所はここで銃と弾丸の応酬で戦うのではなく、あくまでもカーアクションそのもので敵と対抗してゆく部分だろう。また今作から怪しげなオフィサーとしてカート・ラッセルが登場し、スパイ・アクションとしてのワイスピの世界観を確固としたものにしてゆく。また、この作品はブライアンを演じたポール・ウォーカーの遺作となった作品であり、彼の死により付け加えられたエピローグは、ファンにとって涙無しに観ることのできない万感迫る名シーンだった。
■そしてシリーズ8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』
という訳でやっとシリーズ8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』に辿り着いた。作品的には『ワイルド・スピード MAX』から培われてきたワイスピ・ワールドの在り方をきっちり継承したものとなっている。即ちファミリー、カーアクション、ワールドワイド、世界を混乱に陥れようとする邪悪な敵役、ハイテク装置の争奪戦、奇想天外な作戦、圧倒的な物量にまかせたド派手な展開、殆ど戦争状態の凄まじい大爆発・大破壊、などなど。
しかしそれだけだと「今までと同じ」になってしまうので、物語の変化球として導入されたのが主人公ドミニクのファミリーへの「裏切り」である。この辺の理由や結末は映画を観てもらうとして、これはある意味イーサン・ホークが破壊活動に手を染めたりジェームズ・ボンドがスペクターの手先になったりジョン・マクレーンがNYでテロ行為を始めたりするような、アクション・シリーズの禁じ手を堂々とやっちゃったことがまず面白い。
ブライアンは既におらず、最強のドミニクが敵に寝返り、弱体化したワイスピ・ファミリーにテコ入れすることになったのが実は……という展開も意表を突く。まあ、「いいのかそれ!?」と思わなくもなかったが、おかげで今までとは違ったテイストのワイスピ作品として進行し、しかしラストはきっちり確固たるワイスピ・ワールドへと還ってゆく安心の完成度だ。あと、ジェイソン・ステイサムがびっくりするぐらい活躍していたのと、ヘレン・ミレンの登場が嬉しかった。
これまで戦術ドローンと戦い戦車と戦い今作では潜水艦とまで戦っちゃうワイスピ・メンバーだが、小火器重火器を装備することなくドライビングテクニックだけでこれらと応酬してしまうのはまさにワイスピならではの醍醐味だろう。次作でもしも『インデペンデンス・デイ』みたいな異星人の巨大UFOが襲ってきても、きっとニトロで爆走しながら撃破してしまうに違いない。もはやワイスピ、「走るランボー」状態である。
とはいえ、きっちり充実した出来であるにもかかわらず、困ったことに観ていてちょっとだけ物足りなさを覚えてしまう。それは、ポール・ウォーカーの不在だ。2、3作目を除くワイスピ・シリーズは、ヴィン・ディーゼル/ポール・ウォーカー、ドミニク/ブライアンの、反目を乗り越えた友情の二人三脚で美しく輝いていたのだ。もしもこの作品にブライアンが登場していたら、ドミニク/ブライアンが再び反目しあい互いの情念をたぎらせ合う、といった熱い展開が見られたことだろう。
思えば、ハイスピードカーとハゲ頭、鉄塊と肉塊とが排気ガスと汗を撒き散らしぶつかり合うひたすらこってり油っぽいワイスピ・ワールドの中で、ブライアン/ポール・ウォーカーは涼風のような爽やかさをもたらす存在だった。ヴィン・ディーゼルはいみじくも「『ワイルド・スピード SKY MISSION』がポールに捧げた作品だとしたら、8作目はポールから受け継いだ作品」と語ったというが*1、そうして作られたこの作品は、確かにこれまでの作品の継承でありながらも、ポールというかけがえのない存在だけは継承できなかった、ということを思い知らされた作品でもあった。重ね重ね、ポール・ウォーカーの死が残念でならない。
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