ゲロ吐きそうになるぐらいイヤらしいお話が詰め込まれた最低最悪の残虐非道暗黒コミック〜『デス・クラブへようこそ』

■デス・クラブへようこそ / ヴィンシュルス

デス・クラブへようこそ (ShoPro Books)
バンドデシネは好きだしよく書籍は購入するけれども、割とホドロフスキーばかりに傾いていたり、シリアス路線の作品が多いような気がするなあ、と思っていたのである。なんかこう、もうちょっとどうしようもなく下らない作品、しょーもない作品も読んでみたい。そこであれこれ探して見つけたのが日本では2012年に発売された『デス・クラブへようこそ』。
もう表紙からナメきったB級臭がぷんぷんするではないか。しかも作者であるヴィンシュルスは、2011年にバンドデシネ版『ピノキオ』が日本で発売されていたアーチストだ(レヴューはこちら)。いやーこのバンドデシネ版『ピノキオ』、絵柄こそなんとなくポップだけれど、内容はというと最低最悪の残虐非道暗黒コミックだったなあ…としばし記憶をまさぐってみる。きっとこの『デス・クラブへようこそ』もきっとまたゲロ吐きそうになるぐらいイヤらしいお話なんだろうなあ…と読み始めたのだが、予想は的中、作者の性格の暗さ性格の悪さが赤々と燃えたぎる暗黒クソコミックだったよ!
この『デス・クラブへようこそ』には「パット・ブーン"ハッピー・エンド"」「スマート・モンキー」「デス・クラブへようこそ」の3作が収められている。そのどれもが、下手なんだか上手いんだが判らないグヂャグヂャした描線で描かれた、読めば読むほど嫌な気分にさせられる、とことん下劣で悲惨で救いようの無いお話ばかりなんだ!
まずちょっと短めの「パット・ブーン"ハッピー・エンド"」。これはコケシみたいな体形した究極の非モテ男パット・ブーン君と彼を取り巻くクソ過ぎる連中とを巡る悲惨極まりないお話。パット君はチチとケツがデカいだけがとりえのアヒルみたいな顔の女を好きになり、彼女をモノにしようと画策するけれども、なにもかもが裏目に出てとことん惨めな思いをしてゆくんだ。でもこのパット君というのが単なるチンカス野郎にしか見えないので全く感情移入も同情もできず、読んでいてラストまでただただうんざりさせられるだけ、という珠玉の名作なんだよ!
続いてちょっと長めの「スマート・モンキー」、これが傑作だ!その徹底的な救いの無さが!主人公はアフリカかどっかのジャングルに住むいけ好かない顔したサル。そしてこの主人公サルを獲物にしようとする頭のおかしいサーベルタイガーが登場し、鬱蒼としたジャングルを舞台に「トムとジェリー」みたいな追いかけっこを展開する、というのが本作なんだね。しかしコミカルで可愛らしいキャラクターたちがシュールなスラップスティックを演じる「トムとジェリー」と比べるなら、この「スマート・モンキー」は恐怖と狂気に囚われたキャラクターたちが死に満ち溢れた暗黒の地獄巡りを体験するという物語だといえるね!どこまでも絶望的なラストにオレは寝込みそうになったよ!それだけじゃない!このラストのあとにさらに人間を主人公としたエピローグが付け加えられるんだが、これがまた具合が悪くなってくるほど絶望的!もう絶望の上にさらに絶望を重ねてくるという2段構えのテクニカル絶望!作者はきっとケツ毛に付いたウンコみたいなクソ野郎に違いない!
3作目「デス・クラブへようこそ」は4〜14ページほどのショートストーリーが幾つかまとめられたものなんだが、そのどれもが忌まわしくもまたエゲツない愉快な暗黒喜劇が描かれているんだね!もうホントこんなうんざりさせられるようなお話ばかり思いつく作者は別の意味で天才的だよね!ちょっと小難しく書くとこの透徹したニヒリズムの背後には冷え冷えとした鋭利な知性が宿ってないこともないとちょっと褒めたりもできるね!
というわけで今の人生じゃ絶望し足りない、もっと人生に絶望したい、臨死体験ギリギリの吐きそうな物語が読みたい、という物好きな紳士淑女にあられましてはきっとこの『デス・クラブへようこそ』が気に入るんじゃないかな!ホントにゲロ吐いたり寝込んだりしても保障しないけどね!
参考:深町秋生のコミックストリート 第65回 / あなたに一冊、一家に一冊、学校に一冊。闇の推薦図書「デス・クラブへようこそ」

デス・クラブへようこそ (ShoPro Books)

デス・クラブへようこそ (ShoPro Books)

ピノキオ (ShoPro Books)

ピノキオ (ShoPro Books)