『一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史』を読んだ

■一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史 / ポーラ・アンダーウッド

一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史

アメリカ大陸に住む、インディアンとも呼ばれるネイティブ・アメリカンの人々は、その昔ベーリング海峡が陸続きたっだころベーリング陸橋をわたり、アジア大陸へ渡ってきたモンゴロイドの子孫だという説が定着しつつある。「一万年の旅路」は、ネイティブアメリカンのイロコイ族に伝わる口承史であり、物語ははるか一万年以上も前、一族が長らく定住していたアジアの地を旅立つ所から始まる。彼らがベーリング陸橋を超え北米大陸にわたり、五大湖のほとりに永住の地を見つけるまでの出来事が緻密に描写され、定説を裏付ける証言となっている。イロコイ族の系譜をひく著者ポーラ・アンダーウッドは、この遺産を継承し、それを次世代に引き継ぐ責任を自ら負い、ネイティブ・アメリカンの知恵を人類共通の財産とするべく英訳出版に踏み切った。

なんだかいろいろな意味で凄い本である。タイトル『一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史』とあるように、この本はあるネイティヴ・アメリカンの一族の、本当だとすれば一万年分の歴史が詰まった口承が物語られているのである。
約一万年前といえば最後の氷河期が終わりヨーロッパ中部の火山活動が終息したころだ。そしてこの本ではそのままこの氷河と火山活動の災禍の部分から語られ始めるのだ。部族は激変する環境から逃れ安住の地を目指すため、アジア大陸東部と思われる土地から、当時陸続きではあったが水没の始まっていたベーリング海峡を決死の思いで踏破し、アラスカ、カナダ、アメリカ西海岸と渡り歩きながらさらにアメリカ大陸を縦断し、最終的にはアメリカ北東部にあるオンタリオ湖居留地を見つけるが、これがタイムスパンとして1万年分あり、しかもそれが口承として残っているというのである。
しかもこの本のさらに凄いのはそれだけで終わらない別のエピソードにある。アフリカ大陸の砂漠化によりヨーロッパへと移動した過去の一族の口承や、絶滅したネアンデルタール人と思われる部族との接触、さらにかつての人類が水に棲んでいたため体毛が抜けたというエピソードまであり、こうなってくると一万年どころか十万年前という人類発祥の時期まで遡ってしまうことになるのだ。そしてそれら全てが口承によって残されているというではないか。他にもアトランティス大陸と思われる大陸の沈没に関する口承やインカ文明との接触すらも語られ、こうなるとネイティヴ・アメリカンの口承に人類史全てが詰まっていることになるのである。あとなんと「テレパシーか?」なんて記述があって空の彼方にぶっ飛ばされますよ。
10万年にのぼる人類の歴史が人類の一部族の、しかも口承伝説として残されいる。そんなことがあり得るものなのだろうか。「コレハトンデモ本ナノデスカ…?」とまず思うのである。10万年や1万年とはいわないが、近代から残るネイティヴ・アメリカンの口承に、虚偽や捏造を意図することなく実際に発見された地球科学やその歴史が少しづつ混入してしまった結果なのではないか、とも思うのである。思うのではあるが、この口承が真っ赤なニセモノとも真実とも証明する術はない。術はないが、「ありえないだろ」とも思う。しかし「インディアン嘘つかない」とも言うではないか。少なくともベーリング海峡横断はあったのだろうし、そこからアメリカ大陸の様々な土地を移動したことも現実ではあるのだろう。それが本当にこの口承が語られる部族のものなのかどうかもまた別の話なのだが。
そういったモヤモヤ感はあるにせよ、幾世代を経ながらアメリカ大陸という未踏の地を様々なことを体験し学習しながら踏破してゆくネイティヴ・アメリカン一族、という物語は読み物として迫真的であるのは間違いない。むしろ真偽がどうとかではなく一つの伝説、神話として読むほうが正しいのだろう。そもそもかの一族にとって、"事実"という概念のありかたが我々と違うのだということだって考えられるではないか。この口承史で語られる彼ら独特の「学び」への意志はニューエイジ臭くて興味を覚えなかったが、1万年にわたり平和に暮らしていた部族が、最後の最後になって他部族との衝突により遂に「戦争」を覚えるという展開には、十分なアイロニーが込められていると思う。
参考:読了:一万年の旅路―ネイティヴ・アメリカンの口承史(ポーラアンダーウッド) - とは云ふもの丶お前ではなし

一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史

一万年の旅路 ネイティヴ・アメリカンの口承史