韓国版・終末世界のオムニバス〜映画『人類滅亡計画書』

■人類滅亡計画書 (監督:キム・ジウン、イム・ピルソン 2012年韓国映画)


人類滅亡をテーマに描かれた、全3作収録の韓国産オムニバス映画です。監督を「ラストスタンド」「悪魔を見た」のキム・ジウン、「南極日誌」のイム・ピルソンがそれぞれ担当しています…とは言いつつ、オレは韓国映画あまり観ないのでどういう監督なのかはよく知らないんですが…。韓国映画の完成度の高さは幾つかの映画を観て理解しているんですが、そのリアリズムのありかたがとても苛烈で、ちょっぴり苦手だったりしてたんですよ。でもこの『人類滅亡計画書』は程よく肩の力が抜けた作品が多くて、楽しんで観る事ができました。全体的にオーソドクスな終末テーマを扱った作品ばかりではあるんですが、韓国映画の独特の雰囲気が作品全体をユニークなものに見せているんですよ。

第1話「素晴らしい新世界」(イム・ピルソン監督)


「人類滅亡」とかいいながら最初が生ゴミの分別から始まるってぇのが「なんじゃこりゃ?」って感じでいいんですね。テーマは実はゾンビ物なんですが、主人公がゾンビコミック『アイアムアヒーロー』の英雄君そっくりの情けない顔だっていうのがまたいい。ゾンビ・テーマって今や出尽くした感があって、じゃあ今ゾンビで何を描くの?っていうとゾンビ・プラス・×××の、その組み合わせの部分の目新しさとか面白さ、っていうところになるんでしょうね。じゃあ「素晴らしい新世界」では何が組み合わされていたかというと韓国のベタな青春風俗なんですね。映画ですからこれが現実の韓国若者風俗だ!ということはないでしょうが、焼肉屋でのデートやクラブでかかる音楽(これがハードミニマルテクノで、韓国の人分かってる!って感じ)が、ただそれだけで面白かったりするんですよ。そういうコメディ・タッチの作品ではありますが、根底の部分ではひどくドライで孤独なものを感じました。

第2話「天上の被造物」(キム・ジウン監督)


ロボットが極当たり前に一般に浸透し、お寺の修行僧にすらロボットがいる、という未来を描いた作品です。物語の中心になるロボットは、修行を経て人間のように悟りを開いちゃったロボット僧なんですね。今、ビデオ再生された喋る遺影とか、テープで流される読経とか、機械化された社寺業務があったりするらしいですが、その発展形ということでしょうか。で、この物語は、悟りを開いたロボットを人類への脅威とみなし解体しようとするメーカーと僧たちとの対立を描いたものなんですね。ロボットとはいいますが、厳密には「自意識に目覚めたA.I.」と言ったほうがいいと思います。「自意識に目覚めたA.I.」というSFテーマは昔からあるものなんですが、しかし「A.I.が悟りを開く」っていったいどういうことだ?と思う訳です。一般に「悟り」っていうのは現世の執着や妄念から解脱し真理に至った者、ということなんでしょうが、ではA.I.には執着や妄念があるのか?というとそれはないでしょう。ではこのロボットが至った「悟り」というのはどういうことなのか?というと、これは自らを律するプログラムから解き放たれる、ということしかないでしょう。それがどういうことなのかはある意味A.I.にしか分からないことなのですが、A.I.をこんな風に描いた部分でSF的に斬新だと思いました。韓国のお寺の雰囲気もいいですね。

第3話「ハッピー・バースデイ」(イム・ピルソン&キム・ジウン共同監督)


地球に巨大隕石が接近して衝突の危機!という『ハルマゲドン』みたいなお話をユーモアたっぷりに描いた作品です。しかしこの隕石、なんだか変だぞ…?という部分がキモとなるんですが、この着想の在り方がオレにはとっても小松左京の初期短編作品を思い起こさせてくれて、「あー、小松さんってこういう馬鹿馬鹿しい世界の終わりって好きだったなあ」なんて、なんだか懐かしく思い出したりもしました。お話は隕石衝突に備えて地下シェルターに籠ったある家族を中心に描かれ、そしてこの家族というのが人類滅亡が近づいているっていうのになんだか呑気で、この雰囲気がまた可笑しい作品なんですね。シェルターの中で家族が見守るTV番組のキャスターたちが、近づく世界の終りにすっかりパニくっちゃって、いきなり局員同士の不倫をばらして喧嘩始めたり横笛とかギターで歌いだしたりとか素敵過ぎなシーンだったなあ。ところでこの作品、あのペ・ドゥナが出演してるんですが、ほんとにちょっとしか出てないのでファンの方は御注意を!

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