故郷のトルコへいざ行かん!〜映画『おじいちゃんの里帰り』

■おじいちゃんの里帰り (監督:ヤセミン・サムデレリ 2011年ドイツ映画)


1960年代、愛する家族を生まれ故郷であるトルコに残し、一人ドイツへと出稼ぎにやってきたフセインさん。働き詰めに働いて、ようやくドイツへ家族を呼び寄せ、気付いてみたらもう70歳を超え、子供たちもそれぞれ家族を持ち、孫の顔まで拝むことができた。あー、やっとなんとか落ち着いたな…そう思ったフセインさんは家族に告げる。「なあ!みんなでわしの生まれ故郷のトルコへ行こう!」かくして、わいわいがやがや、喧々諤々のトルコ旅行の始まり始まり!
ドイツ映画『おじいちゃんの里帰り』は、ドイツの映画ですがトルコの映画です。50年前ドイツに移民してきたトルコ人家族が中心だからです。第2次大戦後のドイツは経済復興を移民の労働力に頼っていたのだとか。ヨーロッパの主要各国では移民の受け入れは普通にあることなんだろうなあ、と漠然とした認識はあったにせよ、こういった形で具体的なドイツの移民政策の話を知るのは初めてでした。そしてドイツは人口比における移民の割合が一時期一番高い国だったんですね。ちょっぴり勉強になりました。

ドイツは第2次世界大戦後、移民国として発展してきた。旧ドイツ領土から強制的に追放された人々やその子孫には、「帰還移住者」としてドイツ国籍を付与。1970年代まで続いた奇跡の経済復興期には、トルコなどから多くの外国人労働者およびその家族らを呼び寄せた。政治的に迫害を受け、庇護を求める難民も積極的に受け入れてきた。こうして今日では全人口8213万5000人のうち1556万7000人(2008年)、5人に1人が「移民の背景」を持つ住民となっている。
ドイツニュースダイジェスト/移民問題とドイツの課題

映画はドイツからトルコへと向かうフセイン一家が巻き起こす様々なドラマと、、若かりし頃のフセイン爺ちゃんの、ドイツへ移住してからの日々が交互に語られていきます。冒頭、移住してから50年、やっとのことでドイツ国籍を取れたフセイン爺ちゃんの複雑な心境が描かれます。苦労はあったけど、家族と一緒に幸福に暮らしているドイツ、奥さんと出会い、貧しかったけど輝かしい青春を送っていたトルコ。70歳になってなお、フセイン爺ちゃんの心は二つの故郷に引き裂かれていたんですね。実はオレも30年以上前、ホッカイドーと呼ばれる遠い国から日本に移民してきた口なので、お爺ちゃんの気持ちがなんとなくわかります。まあオレの場合、もう別に帰りたいとかは思わないですが。
面白かったのはイスラム教徒であるフセイン一家がドイツのキリスト教に眉をひそめる場面でしょうか。これ、別に敵対するとかいう深刻なもんではなくて、言ってみりゃあ納豆に対する関東と関西の考え方の違い程度に描かれているんですね。関西じゃあ「納豆みたいなもん食うなんて信じられん」なんて言われているのかもしれませんが、実際食べてみたら美味しかった、なんて方もいらっしゃるでしょう。この『おじいちゃんの里帰り』では、「木に懸けられた手足が血まみれの男を敬うなんて気色悪い!」とか言いながら、次第に「クリスマスはキラキラして楽しいからいんでね?」なんて受け入れます。まあこれは映画ですけど、実際にもそんなふうに肩ひじ張らないものだったらいいですね。
現実的にはドイツとトルコ人移民とは、住民同士の軋轢、差別や経済格差など一筋縄ではいかない問題を沢山孕んでいるのでしょう。痛ましいヘイトクライムも実際に起こっているようなんです。ドイツ在住のトルコ人監督であるヤセミン・サムデレリは当然そういった問題を熟知しているのでしょうけれども、映画ではそういった現実的にシビアな側面を決して描きません。しかしそれは避けて通ったのではなく、これらの問題は既に誰もが身に染みて分かっている事実なのだから、わざわざそれを描くのではなく、むしろ移民として生きてきたことの誇り、幸せを描こうじゃないか、と思ってこの映画を撮ったのではないでしょうか。そんな部分に、「人生明るい部分を見て生きていこうじゃないか」というトルコ移民の逞しさをと力強さを垣間見た映画でした。