京極夏彦による現代語版遠野物語〜『遠野物語Remix』

遠野物語Remix / 京極夏彦,柳田國男

遠野物語remix

人の住まぬ荒地には、夜どこからともなく現れた女のけたたましい笑い声が響き渡るという。川岸の砂地では、河童の足跡を見ることは決して珍しいことではない。遠野の河童の面は真っ赤である。ある家では、天井に見知らぬ男がぴたりと張り付いていたそうだ。家人に触れんばかりに近づいてきたという。遠野の郷に、いにしえより伝えられし怪異の数々。民俗学の父・柳田國男が著した『遠野物語』を京極夏彦が深く読み解き、新たに結ぶ―いまだかつてない新釈“遠野物語”。

そういえば京極夏彦って昔よく読んでいたけど最近新刊出してるのかなあ?今いったいどうしてるんだ?と思ってたら見つけたのがこの『遠野物語Remix』。柳田國男が著した民俗学書籍の至宝「遠野物語」を、京極夏彦が読みやすい言葉で現代的に蘇らせた作品であるらしい。「遠野物語」がどんなものなのかはなんとなーく知ってはいたものの、実は読んだことがないオレは、京極の新刊と「遠野物語」を併せて読んだ気にさせるお得感を感じて読んでみることにした。
読んだことも無いくせに知った顔で書いてみると、「遠野物語」は岩手県遠野町(現・遠野市)に古くから伝わる民間伝承を柳田國男が集め編纂したものだ。実は以前にも『水木しげる遠野物語』というコミックを読んだことがあるが、その時のオレの感想文では、

"遠野"とは「トー」、即ち「湖」を指すアイヌ語に由来しているという。盆地である遠野が太古、湖だと信じられていたかららしい。北海道のみならず東北にはアイヌ語由来の地名が多数存在していることからもわかるように、古代、東北には"蝦夷"と呼ばれる人々が居住していた。この「遠野物語」で描かれる妖しく不思議な物語の数々にも、彼ら"まつろわぬ民"の姿がうっすらと透けて見え、当時遠野に住んでいた人々が、彼らの存在、または伝説にどのような恐れと畏敬の念を抱いて接していたのかを窺い知ることができる。

なーんていうことをやっぱり知った顔で書いている。
しかしこれら"妖し"の伝承が集められた遠野という土地は、なんとなく人里離れた相当の山奥の過疎地みたいな場所、というイメージを持っていたのだが、この『遠野物語Remix 』で読んでみると、実は昔からそれなりの人口を抱えた結構栄えた町だったのだそうだ。正確に言うと「江戸時代に陸奧国代遠野南部氏1万2千石の城下町」であり、「内陸部と沿岸部を結ぶ交易の拠点として多くの物資や人々が集まり、様々な商家が軒を連ねて賑わっていた」町であったのだという(何にも知らなすぎて岩手の人に怒られそうだなオレ)。そうしてみると、「遠野物語」って田舎で語られるおとぎ話みたいなものではなくて、当時のある種の「都市伝説」だったということもできるのだろうか?
収録された口碑は河童や座敷童、天狗や山人など、いわゆる"妖怪"が登場するものではあるが、これら"妖怪"は、当時の人々が不可思議な自然への畏敬、人の生き死にの不条理さに「名前」を与え「形」としたものなのだろう。掴み所のない畏れに「形」を与え、「物語」として昇華することで、自然や生への不安を対象化しようとした、それがこれらの物語なのだろう。しかし全ての物に「名前」があり「形」が存在する現代に生きて、逆にこれら確固として名付け得ぬ曖昧模糊とした原初の衝撃に、ささやかな憧れを抱くこともまた確かだ。それは「名前」以前の生々しく荒々しい「本質」に身を晒してみたいという動物的な感覚なのかもしれない。Remixではあったけど、遠野の物語を読んでそんなことを思った。

遠野物語remix

遠野物語remix

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

遠野物語―付・遠野物語拾遺 (角川ソフィア文庫)

水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)

水木しげるの遠野物語 (ビッグコミックススペシャル)