■オブリビオン (監督:ジョセフ・コジンスキー 2013年アメリカ映画)
トム・クルーズ主演のSF映画『オブリビオン』は、荒野と化した地球で孤独な保全作業を続ける男が、異星人侵略の本当の真実を知るまでを描いた映画だ。以下なるべくネタバレしないように紹介。
物語は突然の異星人の侵略に人類がかろうじて勝利を収めてから60年後の世界が描かれる。汚染された地球は既に居住不可能となり、生き残った人々は土星の衛星タイタンへの移住を余儀なくされていた。主人公ジャック・ハーパー(トム・クルーズ)とパートナーのヴィクトリア(アンドレア・ライズブロー)は、異星人残党の掃討と、移住計画の保全作業のため、荒廃した地球に居残り、タイタンへ旅立つ日を間近に控えながら地球の最期を見守っていた。そんなある日、空から謎の宇宙船が墜落、そのただ一人の生き残りである女(オルガ・キュリレンコ)を回収したジャックは、見知らぬ筈のその女に自らの名前を呼ばれる。その女は誰なのか?自分はなぜ記憶を抹消されているのか?保全作業と言われていた自らの職務の本来の目的は何だったのか?そして異星人たちの侵略は本当に終わっていたのか?忘却の彼方から、真実が少しづつ明るみになり始める。
荒廃した地球。廃墟と化した都市。人っ子一人いない荒野がどこまでも続き、辛うじて残る文明の残滓がかつての繁栄を物語るのみだ。これまで「文明崩壊後の地球」を描いた映画作品は数あるだろうが、『オブリビオン』ではもはや見渡すばかりの荒野、荒野、文明崩壊後60年というよりも石器時代まで遡りしたかのような寂寞感がみなぎる。この荒野の情景が素晴らしく美しい。アイスランドで撮影されたということだが、もはや地球というよりも見知らぬ異星を映し出したかのよう。この荒野の情景がまずこの映画の見所だ。
そしてその荒野の只中に存在する、主人公とパートナーとが駐留する保全基地「スカイタワー」の未来的な美観。地上1000メートルにそびえるそれは蜘蛛の巣のように華奢でか細く、しかし未来科学による確固とした剛体を兼ね備えていることを感じさせる。そのスカイタワーから飛び立つバブルシップの機械仕掛けの昆虫の如き美しさ。さらに防衛・戦闘用無人飛行マシーン「ドローン」の禍々しく無機的なフォルム。そして主人公とパートナーの機能的なコスチューム。これらは全て白とグレイと青とで統一され、非常に秀逸なSFデザインとして観る者の目を奪う。
この廃墟と化した地球の情景にぽつねんと現れる冷たく未来的なビジュアルとの対比、といった部分でこの作品はまず半分は成功しているといえる。SF映画作品としての魅力を非常に感じさせるのだ。しかしこの映画はデザインやVFXだけが魅力の映画だという訳では決してない。この『オブリビオン』を真に秀逸なSF映画たらしめているのはその物語だ。ネタバレを避けるため多くは書かないが、地球壊滅後の世界を描きながらも、この映画は多くの謎を冒頭から投げかけながら進行する。まず主人公ジャックが夢の中で観る破滅前の地球での記憶。破滅後60年を経過しているのに、ジャックに破滅前の地球の風景の記憶がある筈が無い。そして機密保持の為に5年以前の記憶が抹消されているという理由も不可思議だ。そしてジャックを襲う異星人の残党と思われていた者たちが、実は地球人だった、という事実。彼らは何者で、ここで何をしていて、何が目的なのか?最大の謎は不時着した宇宙船が60年前のものであり、その中から生き延びた女がジャックを知っている、という事実だ。これは何を意味するのか?
これらの謎が交差しながら、物語は次第に宇宙人地球侵略の真の全貌が明らかになってゆくのだ。そしてそこで描かれるのは、実はラブストーリーであり、そしてそれは、失われた記憶と、悲痛な事実とがない交ぜになった、あまりにも切ない物語だったのである。タイトル『OBLIVION』の意味は「忘却」。ジャックは何を忘却していたのか、またはさせられていたのか。自分とは誰か?自分とは何か?自分はどこから来てどこへ行くのか?かつて多くのSF作品は、それらを主題としながら幾多の傑作を残してきた。そしてこの『オブリビオン』も、そのあまりにもSF的な命題をテーマに描かれた傑作の一つとして数え上げられることは間違いない。