映画『クラウドアトラス』は時空を超えたアストロ球団だったッ!?

クラウドアトラス (監督:ラナ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ/アンディ・ウォシャウスキー 2012年ドイツ・アメリカ・香港・シンガポール映画)


奴隷制の未だ残る19世紀の過去から文明の崩壊した24世紀の未来へ、時空を超越した6つの物語が交互に描かれてゆくというグランドホテル形式の映画『クラウドアトラス』であります。
その6つの物語とは次のように成り立っているんですな。

1849年、南太平洋。奴隷売買を託された青年ユーイングは、その帰路で逃亡奴隷に命を助けてくれ、と懇願される。
1931年、スコットランド。作曲家志望の青年フロビシャーは天才作曲家の元に身を寄せるが、その作曲家は因業な頑固ジジイだった。
1973年、サンフランシスコ。ある女性ジャーナリストが原発関連の汚職を追及するが、殺し屋に命を狙われる。
2012年、イングランド。老編集長は金銭トラブルから逃げようと兄を頼るが、彼はその兄に老人療養所に監禁される。
2144年、ネオ・ソウル。クローン少女ソンミ451は単純労働奴隷として使役されていたが、反政府ゲリラの青年に救い出される。
2321年、文明崩壊後の地球、かつてのハワイ。弱肉強食の世界で一人の男が、残されたテクノロジーを所有する集団の女に助けを求める。

これらの物語の登場人物を演じるのはトム・ハンクスハル・ベリーヒューゴ・ウィーヴィングヒュー・グラントスーザン・サランドンペ・ドゥナ、などなど。この俳優たちが物語ごとに役柄を変え、ある時はお話の主人公だったり敵役だったり、ちょっと顔出すだけの端役だったり、という形で登場する所がこの映画の特徴でしょうか。逆に言うと、この物語では様々な登場人物たちが輪廻転生しながら過去から未来へ、それぞれの時代に生まれてそこで生き、過去生で出会っていた人物と再び関わったりすれ違っていたりしている、ということを表現しているということもできるわけです。
それぞれの物語の見所としては、

1849年、南太平洋篇。白人青年と黒人奴隷との次第に芽生えてゆく信頼関係!『ジャンゴ』の後はどうぞ!
1931年、スコットランド篇。作曲家志望の青年はゲイ。『アナザー・カントリー』とかが好きな人はどうぞ!
1973年、サンフランシスコ篇。女性ジャーナリストが追及する原発スキャンダル!『チャイナ・シンドローム』を思い出させますね!
2012年、イングランド篇。養護施設の反乱は『カッコーの巣の上で』のコメディ版でしょうか!?
2144年、ネオ・ソウル篇。クローン少女ソンミ演じるペ・ドゥナと言えば『空気人形』!あと未来の東洋世界での戦闘は『攻殻機動隊』してますね!
2321年、文明崩壊後の地球篇。そのヒャッハー!さは『マッドマックス2』というか『ブレイブハート』ですね!

…ってな感じかな。

6つの物語は細切れに時間軸を追って物語られていきますが、これらの物語が最終的にいったいどういうふう関わっていくのか、そもそも関わっているものなのか、映画の観始めにはなかなか分かりません。こういった興味を持たされつつ物語の進行を見守るのはなかなか楽しいです。そして次第にちょっとづつ、それぞれの時代に共通するキーワードや事柄などが登場し、どうやらなにか繋がっている、という気になってきます。ただどうも、「繋がっていることにしておく」といったほうがいいような繋がり方で、ちょっと必然性が見出しにくいんですよ。そして映画がクライマックスを迎える頃には6つの物語に共通したテーマが明らかになりますが、それは【強者に蹂躙される弱者がそれを乗り越えようとする物語】なんですね。
しかし、それぞれの物語は単体で観てもそれほど際立った面白さや独特さを持つ物語とは言い難いんですね。なにかありきたりな物語なんですよ。制作者はこれらがシャッフルされながら共通テーマへとなだれ込んでいく部分にカタルシスを持たせたかったのかもしれませんが、【強者と弱者】というテーマだけだとどうも弱い。弱い、というか、それぞれの物語が映画の尺の都合でしょうが短くて掘り下げ不足であり、テーマをより明確に描写し切れていないきらいがあるんですよ。この映画はもともと日本語翻訳版だと上下巻の長大な作品を原作としており、180分近くある映画作品として映画化されてはいるものの、やはりどこかアウトラインをなぞるだけのダイジェスト版のように見えてしまう。で、結局は3時間掛けてトム・ハンクスハル・ベリーヒューゴ・ウィーヴィングらの仮装大会を見せられているだけのような気にさせられてしまう。製作者側はこういった6つの物語を持つ作品を映画化するということに並々ならぬチャレンジ精神を掻き立てられたのだとは思いますが、それが成功したかどうかは少々疑問に感じてしまいました。
それにしても【それぞれ体のどこかに彗星型の痣を持つ人々の数奇な運命】って…同じ痣を持つ者同士の数奇な運命というと、これはどう考えても【アストロ球団】じゃないっすか!そうか、この映画の本当のタイトルはクラウドアトラス』ならぬ『クラウドアストロ』だったんじゃないのか!?

クラウド・アトラス 上

クラウド・アトラス 上

クラウド・アトラス 下

クラウド・アトラス 下

Cloud Atlas

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アストロ球団 (第1巻)

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