■エンドレス・ポエトリー (監督:アレハンドロ・ホドロフスキー 2016年フランス、チリ、日本映画)
カルト映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーの最新作は前作『リアリティのダンス』(2013)の続編となる作品だ。そして前作同様ホドロフスキーの伝記的物語が描かれることになる。
『リアリティのダンス』はホドロフスキーの少年時代を描く作品だった。そこではチリの寂れた炭鉱町トコピージャで生まれたアレハンドロ少年が、持って生まれた強烈な感受性により世界を"幻視"する様が描かれるが、同時に、どこまでも暴力的で抑圧的に振る舞う父親と「映画作品」という"フィクション"の中で"和解"するという、単なる"自伝的作品"の枠を超えた文芸作だった。それはただ"過去"を語るのではなく、時空を超えて"過去"を再構築し、不幸であった少年時代を幸福の中に完結させようと試みる"救済"の物語であり、暴力的であった父親の魂の底にある澱を清浄なるものへと変容させようとする"赦し"の物語でもあったのだ。
そして今作『エンドレス・ポエトリー』では、ホドロフスキー一家がトコピージャからチリの首都サンティアゴへと移転するところから始まる。ここで描かれるのは青年となったアレハンドロの姿だ。彼はここで幼少時からの持ち前のインスピレーションを形にすることができる行為、【芸術】へと目覚めてゆくのだ。抑圧された少年時代を過ごした彼にとって、【芸術】とは何一つ制約が無くどこまでも自由な世界だった。そしてその自由さとは魂と行動との"アナーキーさ"を意味していた。こうして、青年アレハンドロは数々の"アナーキーな"芸術家たちと出会い、さらに"アナーキーな"恋人を見出し、自らも"アナーキーな"芸術家として花開いてゆくのである。
ここでのエピソードをひとつひとつ紹介することはしないが、まあ、なにしろ、とことん型破りで破天荒で奔放で、「芸術は爆発だ」状態のエピソードが次々に語らてゆく。そしてアレハンドロ青年が愛した毒婦ステラのあまりに常識外れのビジュアルと言動・行動には度肝を抜かされること必至だろう。これらはホドロフスキー一流のメタフィクショナルな情景なのかと思われるかもしれないがそうではない。ホドロフスキーの自伝小説『リアリティのダンス』を読むと『エンドレス・ポエトリー』における物語はステラのビジュアルも含め、ほぼ80%ぐらい現実にそうであったらしいのだ。まあ要するに、青年期のアレハンドロと彼の周囲は真実ハチャメチャの限りを尽くしていたということらしいのだ。
もちろんただハチャメチャだったのではなく、これら全てはアレハンドロ青年らの、【芸術性】の発露だった。そして、【詩人】を自称するアレハンドロ青年には、このハチャメチャこそが、彼にとっての【詩】だったのだ。シュルレアリズム文学を語る上で有名な「解剖台の上での、ミシンと雨傘との偶発的な出会い」という言葉があるが、出会うはずの無いモノ同士が組み合わされた時に生まれる新たな意味、現象、象徴、そしてそれらを出会わせるための恣意的な行動=【ハプニング】を、アレハンドロ青年らは目論んでいたのだ。【ハプニング】は50年代末から全世界で巻き起こった芸術運動の一つを指す言葉だが、アレハンドロ青年はそれと知らずにこの【ハプニング】を巻き起こしていたのだと考えられる。
即ち、『リアリティのダンス』がホドロフスキーの「胎動篇」だとすると、この『エンドレス・ポエトリー』は「躍動篇」だということができる。前作において中心的に描かれた父親との軋轢の物語は完結し、ここでは個人としてのアレハンドロがどのように人生と芸術に目覚めてゆくかが描かれるという訳だ。しかし、「父と子の軋轢」というある種普遍性を帯びた前作に比べ、この作品はより個人的であり、同時に「芸術とは何か」という抽象的な物語になっており、実の所”芸術”に興味が無ければ放埓の限りを尽くしたボヘミアンな群像描写に「この人たちナニやってるの?」という感想で終わってしまうきらいもある。とはいえ、それを抜きにすれば次々と表出するマジカルな映像の妙にとことん堪能できる作品だろう。
ホドロフスキー監督も今年で齢88歳、この歳にしてこの切れ味の作品を作り上げること自体驚異という他ないが、『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』と続いたホドロフスキー自伝作品群は3部作になるとも5部作になるとも言われており、これはもうホドロフスキーの人生の集大成であり彼がその活動の中で何を人々に伝えたかったかの総集編となることは間違いないだろう。既に世界唯一無二の鬼才監督であり、オレが心の底から尊敬している数少ない映画監督の一人であるホドロフスキー、次の作品も待ち遠しいけれど、できるだけ長生きして、その深淵たる思索に満ちた人生を全うしてほしいものだ。
88歳鬼才ホドロフスキー監督最新作メッセージ/映画『エンドレス・ポエトリー』ホドロフスキー監督メッセージ映像
『エンドレス・ポエトリー 』アダン・ホドロフスキー インタビュー|"Endless Poetry" Adan Jodorowsky (Actor)
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