2012年・オレ的映画【裏】ベストテン!

というわけで昨日の『2012年・オレ的映画ベストテン!』に引き続き『2012年・オレ的映画【裏】ベストテン!』をお送りします。
なんで今回わざわざ【裏】なんて別枠を作ったのかというと、こういったベストテンだとどうもブロックバスター映画ばかりが並びがちになり、地味な良作やインディペンデント映画がなかなか入れ難くなってしまうからなんですね。いや、別に入れてもいいんですが、爆炎とCGの踊る派手なアクション映画と、暗く内省的で文学的な映画を一緒くたに並べるのがどうも自分的にはチグハグに感じてしまい、そういった理由で今回2つに分けてみたんですね。つまりこの【裏】ベストテンは"暗く内省的で文学的な映画"が割と多く並んでいるという訳なんです。ある意味より私的なダークサイドに触れたランキングということができるでしょう。では能書きはこのぐらいにしていってみましょう。

1位:アナザー・プラネット

この映画は、いつ果てるともなく続く後悔と、その後悔からの救済を希求する物語なんです。しかしその救済とは、「ここではないどこか」「自分ではない誰か」でしか得る事が出来ないんです。空にぽっかり浮かんだもうひとつの地球。そこでは、多分きっと、「こうではなかった自分」が、全ての後悔から救済され、おだやかに笑いながら、「こうではなかった人生」を歩んでいる。そんな自分がきっといて、そんな自分の人生がきっとある。けれどもそれは果たして救いなのでしょうか。惨めさと苦しみを抱えている自分は、しかし確固にここにいて、どうしようもなかった人生を歩んでいる。そしてそれはどのようにしたって変えようがない。そのような自分自身を抱えながら、しかしそれでもやはり夢想してしまう、こうでなかった自分と、こうでなかった人生と、救済される日を。『アナザープラネット』は、美しい映像の中に、そんな、非常に切ない思いを託した映画なんです。
【レヴュー:贖罪の惑星〜映画『アナザープラネット』 】

2位:メランコリア

今回【裏】ベストテンを作成したのは、ひとえにこの『メランコリア』のためでもありました。今年の映画のベストワンは、実際この映画でもよかったような気がします。にもかかわらず『アナザー・プラネット』に次いで2位にしたのは、「世界なんか終わってしまえばいい」という【願い】がかなえられているといった意味で、きちん完結しているからなんですね。ある意味『アナザー〜』は救いがあるように見える救いの無い話で、『メランコリア』は救いが無いように見える救いのある話なんですよ。『アナザー〜』のほうが絶望が深いんです。そしてこの映画における「世界の終り」はある意味観念的なもので、そして世界の終わりという圧倒的なカタルシスを得ることで自分(主人公、監督、そしてこの映画を観ている自分)の中の葛藤をチャラにすることを可能にしている、デトックス的な物語であるんですよね、それをホラーでもSFでもなく、破滅の予兆に満ち満ちた美しく幻想的な映像で描いているところが、この映画の素晴らしいところなんですよね。
【レヴュー:世界の終り、そして憂鬱という名の昏きトンネルの向こう〜映画『メランコリア』 】

3位:大人のけんか

子供を巡り2組の夫婦でちょっとした意見の相違でしかなかったものが、段々と子供の問題とは何にも関係ない個人攻撃や性格否定へと膨らんでゆき、さらに夫婦同士が仲たがいし、今度は相手の夫婦と意見が合ってみたり、さらには同性同士で共闘して「男はこれだから困る!」「だから女は嫌なんだ!」とやりはじめるさまは、もう可笑しくてしょうがないのと同時に、聞いていて痛いところを突かれるような部分さえあり、なんだか自分も一緒にこの論争に巻き込まれて苦笑いしてしまうんですね。早口でまくし立てられる言葉と言葉の応酬は、観ていて一瞬たりとも気の抜けない緊張感に満ち溢れています。たったの一言が物語の流れを変え、さらにあとあとの諍いの伏線になっていたりするからなんですね。コメディの筈なのにこれほど集中力を要求されるのも珍しいし、この中身の濃さと醍醐味を味わうには劇場が一番だ、とさえ感じました。
【レヴュー:ポランスキー監督の映画『おとなのけんか』は極上のコメディだった!】

4位:ドライヴ

ドライヴ [Blu-ray]

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主人公の不器用な寡黙さと唐突な暴力描写は初期の北野映画や『タクシー・ドライバー』を思い出させるんですよ。ある意味北野武が撮った『タクシードライバー』ということも出来ると思うんですが、北野と比べると女の描き方が数段上手いし、どこかタガが外れたような危険なロマンチックさを併せ持った映画でもあるんですよね。確かに物語だけを追いかけると今まで散々作られてきたようなクライム・サスペンスでしかないんですが、その見せ方の要所要所がイカレている、というか、独特過ぎる奇妙な美意識に彩られている。そのドラッギーともいえる美しくそして凄惨な描写にとことん魅せられてしまう、そんな映画でした。
【レヴュー:『ドライヴ』はとてつもなくカッコいい映画だったな(ただし『ヴァルハラ・ライジング』はええっと…)】

5位:クロニクル(Chronicle)<未>
(Amazon U.K. Chronicle: Extended Edition (Blu-ray + Digital Copy))
この『クロニクル』は、強大過ぎる自らの能力に苦悩し押しつぶされ、最後に破滅してゆくという、悲劇の物語として語られているといった点で、クローネンバーグの『デッド・ゾーン』により近い感触を持った作品として完成しているんです。高揚感と恐怖に満ちた超能力の描写、その能力を持った者同士の強力な親密性、これら、ビジュアルと内面性の両方で、P.O.V.視点が恐るべき表現力と説得力を発揮しているといった点で、映画『クロニクル』は稀有な完成度を誇る映画として観ることができるのです。傑作です。
【レヴュー:超能力を持ってしまった若者たちの友情と破滅の物語〜映画『クロニクル(Chronicle)』】

6位:Virginia / ヴァージニア

映画『Virginia/ヴァージニア』では、不気味な殺人事件を通し、そんなアメリカの片田舎の持つ、どんよりとした暗い情念と暴力、超自然的な妖しさが全編を通して描かれます。しかし、予告編やエル・ファニングの血まみれの姿のスチール、作品紹介で漠然と印象付けられる、"吸血鬼の現れるホラー映画"というわけでは決してありません。"吸血鬼"は事件のミスリードを誘うキーワードでしかないし、子供たちを襲ったいたましい大量殺人は描かれはするものの、ホラー映画というジャンルの作品では全くないんです。むしろ幻想映画と呼べるものであり、そしてその幻想を通じて、主人公の魂の救済と、殺された子供たちへの鎮魂を描く作品として仕上がっているんですね。変な化粧してましたが、エル・ファニングが好演でした。
【レヴュー:コッポラの描くアメリカン・ゴシックの世界〜映画『Virginia / ヴァージニア』】

7位:ベルフラワー

ベルフラワー [Blu-ray]

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マッドマックス2』の終末観を、失恋を通して、主人公二人の終末の予感に重ね合わせた物語。主人公二人の終末観は、ただ単に『マッドマックス2』オタクであったという以前に、実はあらかじめ用意されていたものだということもいえるんですよ。それは彼らのどこか空虚で荒んだ生活の様子からも伺えます。現実感の喪失した日々を生きる彼らは、例えどんな生業に就いていようと、希望の無い、"終わった"人生を続けていた連中だということは想像に難くないんです。つまり彼らは、"あらかじめ失われた青春"を生きる事を余儀なくされた若者たちであり、その空疎な人生が、『マッドマックス2』への偏愛と結びつき、そして失恋によってさらに、壮絶な「終末」を迎える、これは、そういう物語だったんです。
【レヴュー:絶対零度の抒情〜映画『ベルフラワー』】

8位:ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

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主人公オスカー少年役のトーマス・ホーンが実に素晴らしい。父の死、そして9.11の惨禍がトラウマとなり、いまにもバラバラになりそうな心の不安定さを抱えながらも、持ち前の頭の回転の早さと瑞々しい感受性でそれを乗り越えようとする主人公の姿を、新人とは思えない演技力で演じてるんですね。オスカーの出会う、大勢のニューヨークの人々は、9.11の惨禍により、主人公と同じように心の中の"何か"を無くし、そして傷ついた人々なんです。そして「9.11で亡くした父の遺品の鍵が合う鍵穴を探している」オスカーと同様、「9.11で無くしてしまったものを取り戻してくれる何か」をどこかに求めているんです。この『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、一人の少年の喪失と克服の物語になぞらえたアメリカの喪失と克服の物語なんです。
【レヴュー:一人の少年になぞらえたアメリカの喪失と克服の物語〜映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 】

9位:テイク・シェルター

テイク・シェルター [Blu-ray]

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恐るべき災厄の到来を幻視してしまった男が不安のあまり社会生活を崩壊させてまでシェルターを掘ろうとするという、ある意味強迫神経症についてのお話ともいえる作品です。男の幻視は果たしてなんらかの予知だったのか。それとも単に男の頭が狂った結果だったのか。それはラストで分かることではありますが、しかしこの物語の本質は、常になんらかの不安に苛まれて生きる現代人の宿痾ともいえる生を描いているということなのです。その不安は漠然としたものであったり、なにがしかの具体的な事実に対する不安であったりするのでしょうが、この作品はその不安の在り様を幻視という形で不気味に可視化して見せた点で、今現在多くの人が曝されている状況をじっとりと浮き彫りにしているんですね。
【レヴュー:可視化された不安〜映画『テイク・シェルター』 】

10位:夜のとばりの物語

『アズールとアズマール』のミッシェル・オスロ監督による「影絵アニメ」です。映画は幾つかの短い掌編によって構成されていますが、それらはどれも様々な寓意の込められたおとぎ話といった体裁になっており、影絵のシンプルで抽象的な映像も相まってそれぞれが非常に想像力を刺激される物語として仕上がっているんですね。そして登場人物こそ影絵であるものの背景は美しい色彩で描かれており、観ていて自然と絵本を読んでいた子供の頃に戻って見入ってしまうんですよ。しかしそこに挿入される寓意は決して子供向けのものではなく、ある種残酷なものも交じっているんですね、ですから大人の絵本、ということもできるアニメーションであると思います。上映時間は短いのですが、終わったとき、もっとこの世界に浸っていたい、としみじみ思いました。
【レヴュー:美しくて不思議な影絵の御伽噺〜映画『夜のとばりの物語』 】

■というわけでまとめのようなもの

以上、【裏】ベストテンをお送りしましたが、こうして並べてみると、自分というのは幻想味の強い美しい映像の物語が好きなようなんですね。そういえば表のベストテンも割とそういう傾向でしたね。言ってみれば表のベストテンは気持ちがアクティヴな時の自分で、裏はちょっと静かにしていたい時の自分の心象にマッチした作品ということができるかもしれません。正反対のように見えるかもしれませんが、どちらも自分だし、自分の中では辻褄が合っているんですよ。