さてさて、年末恒例の「映画ベストテン」となりましたが、…ええと、今年オレ、あんまり劇場で映画観てません。春頃から殆ど、インド映画漬けになっていて、ハリウッド話題作とか全然観る暇がなかったんですよ。暇がなかった以上に、ハリウッド映画に興味が失せた、というのもあるんですけどね。さらに、たまさか観たハリウッド話題作がどれもこれもうんざりさせられるような作品ばっかりだった、というのもありますね。
なんて言うんですかね、もうホント、「殺してばっかり」とか「壊してばっかり」とか、どうでもよくなってしまいましてね。もうオレもいい歳なんで、生かすこと・生み出すこと・幸福であること、そういったことのほうに価値を感じるんですよ。もう「観ていて何も考えなくていい作品」に耐えられなくなってしまったんです。まあなにしろ年寄りの言ってることなので、若い方はどんどん殺してばっかりとか壊してばっかりとか超人ヒーローの映画観るといいんだと思います。オレも若い時そうだったし。
そんなことを考えながら、今年観た数少ない非インド映画の中で面白かった作品を並べてみたら、やっぱりハリウッド作品が少なかったなあ。どちらにしろ、数観てませんので相当偏った選考になっておりますが、どうぞ悪しからず。なお、インド映画に関しましては別枠ということにして明日やります!
1位:リアリティのダンス (監督:アレハンドロ・ホドロフスキー 2013年チリ・フランス映画)
カルト映画監督アレハンドロ・ホドロフスキー、23年振りの新作!もう今年観た映画の中でぶっちぎりの最高傑作、今年どころかオールタイムベストテンに入れてもいいほどに胸を打つひたすら素晴らしい作品でした!
では『リアリティのダンス』は何が描かれていたのか。それは少年アレハンドロと彼の一家とを、自伝という形式を取りながら再構築する、といったものだった。実際のホドロフスキーの父はただ抑圧的な親だったという。しかしその父は映画の中で苦難に満ちた彷徨の未に自らの心の裡にあるデーモンと対峙し、遂に家族への真の愛に目覚める。そして実際の母はオペラ歌手に憧れながらも親の反対で平凡な売り子として生きることを余儀なくされていたが、映画ではその母はいつもオペラを歌い、慈愛の中で神と交信する聖母として描くことになる。そして少年アレハンドロは、これら再構築された両親の間で、最終的に大きな愛に包まれることとなるのだ。すなわち『リアリティのダンス』は、自伝の形に見せながら過去を救済し、幸福の中で完結させようとした物語だったのだ。 《レヴュー》
2位:天才スペビット (監督:ジャン=ピエール・ジュネ 2013年フランス・カナダ映画)
夢があり、冒険があり、驚きがあり、楽しく、美しく、そして救済がある。これはジュネ監督のキャリアの中で、新たな地平を切り開いたと言っていい傑作ではないでしょうか。
理解できなかった父が、抜け殻だった母が、自分のために体を張って大立ち回りを演じる。それは息子へ愛ゆえだったが、スピヴェット君はこれまで、こんなに自分が愛されている存在だったということを知らなかった。両親の強い愛情を目の当たりにして、スピヴェット君は、自分は、ここにいていいんだ、ということを改めて知る。スピヴェット君は、旅を通じて、自分を知ることになる。そして旅路の果てに、両親の愛を知ることになる。またその両親は、スピヴェット君の家出とも言える一人旅により、今自分たちにとって、最も守らねばならないものはなんなのかを知る。そうして最後にお互い同士が、失いかけていた家族の絆を取り戻すことになるのだ。全てに対して、乗り越えるべきことが乗り越えられ、救済があり、幸福が待っている。これはなんと素晴らしく、心豊かになることのできる映画なのだろう。ジャン=ピエール・ジュネの『天才スピヴェット』は、そういった部分で、現在最強の映画であるかもしれない。 《レヴュー》
3位:ぼくを探しに (監督:シルヴァン・ショメ 2013年フランス映画)
奇妙な登場人物たちと奇抜な映像、摩訶不思議な世界観とユーモラスであると同時にどこかブラックな物語。ジャン=ピエール・ジュネ、ミシェル・ゴンドリーの系譜を継ぐフレンチ・ファンタジー監督の誕生です。
この作品のテーマを一言でいうならやはり「記憶についての物語」ということができる。映画はフランスの文豪マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の引用から始まるが、ポールの記憶を呼び戻す役割を担うのがマダム・「プルースト」という名前なのは当然意識してのことだろう。そしてポールは蘇った記憶を辿るが、そこには当然悲惨な過去の事実が存在する。しかしその悲惨の記憶をもう一度幸福の記憶に読み変えようと試みるシナリオは、なんと先ごろ公開されたホドロフスキー監督の『リアリティのダンス』そのものではないか。こうしてショメはノスタルジックな映像の中にマジカルな一瞬を挟み込み、幸福の過去を未来の幸福へと繋げるのだ。 《レヴュー》
4位:グランド・ブダペスト・ホテル (監督:ウェス・アンダーソン 2014年ドイツ・イギリス映画)
ウェス監督らしい様式美と色彩美、それが舞台となるヨーロッパの情景に巧みに溶け込み、非常に素晴らしい世界観を表出させていました。
もう一つこの映画を楽しめた理由には、主人公グスタヴ・Hが実直で誇り高い、ある意味古風かつストレートな性格であり、そのシンプルさが理解し易かった、という部分があった。キャラクターとして生き生きとし、魅力に満ちているのだ。さらに物語は殺人事件のサスペンスとアクションがふんだんに盛り込まれ、物語それ自体への興味が最後まで尽きない。ある時はハラハラし、ある時は拍手喝采の物語展開。素敵ではないか。 《レヴュー》
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5位:オンリー・ゴッド (監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 2013年デンマーク/フランス映画)
非常に生々しいバイオレンスが全編を覆う作品でしたが、レフン監督はそのバイオレンスを通して東洋と西洋の神話性が邂逅するさまを描き出していたのです。
映画の異様さは、神経症的なシンメトリー画面の多用と、暗い闇の中で躍る毒々しい赤と青のライティングと、重低音の強調された電子音が鳴り響くBGM、さらに、何の説明も無く突如挿入される幻覚シーンとで、いやがおうにもその不気味さを高めているのだ。それはどこまでもドラッギーであり、むしろこの映画の主役が、このドラッギーな音楽と映像にこそあると思い知らされる。そしてその不気味な映像効果の中で、苦痛に満ちた暴力が花開く。それは果てしなく狂気めいており、にもかかわらず、背徳的な荘厳さに溢れ、神の祭壇における贄の儀式のようですらある。それはあたかも、キューブリックの霊に取り憑かれたデヴィッド・リンチが、過剰投与した薬物の幻影に狂いながら、北野武のバイオレンス映画をリメイクしたような作風なのだ。 《レヴュー》
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6位:ホビット 決戦のゆくえ (監督:ピーター・ジャクソン 2014年ニュージーランド・イギリス・アメリカ映画)
『LOTR』から続いてきたトールキン映画3部作もこれがラスト。有終の美を飾る哀惜に満ちた作品として幕を引きました。
その中で、あくまでも友情と信頼を第一義とするホビット族、ビルボ・バギンズの身を挺した行動が何よりも胸を打つのだ。葛藤と困惑の中で、彼はそれでもドワーフ王に正しい心を戻してもらうために尽力し、その非力な肉体に鞭打ちながら活躍する様は、無私である者の輝きに満ち、この物語でなぜ彼が主人公なのかをあからさまにするのだ。それはやはり同時に、LOTRにおいて圧倒的に非力な存在でしかないはずのホビット族フロドが、結果的に世界を救う者として行動したのとよく似ている。非力な者、目立たぬ者、市井の者が最終的に世界を救い、世界を守る。これがトールキンの描く『ホビット』と『指輪物語』に通底するテーマであり、だからこそ、強力な力を持つ者だけが世界を切り開く英雄譚には無い、独特の妙味を持つ物語として世界に愛され続けてきた理由なのだろう。 《レヴュー》
7位:ホビット 竜に奪われた王国 (監督:ピーター・ジャクソン 2013年ニュージーランド/イギリス/アメリカ映画)
しかし1年の内にトールキン映画が2度も公開されるなんて考えてみれば凄いことですよね。
この『ホビット』、毛があるか無いかが善悪のバロメーターになった、「毛の多い者と毛の無い者との戦い」ということが出来ると思います。即ち「《毛が多い:味方/善》ドワーフ御一行様、ガンダルフ、ビヨルン>《ほどほど毛が生えている:中立/どっちかというと善》ホビット、エルフ、人間>《毛が無い:敵/悪》オーク、ゴブリン、ドラゴン」という図式です。このセオリーで申しますと、窮極の悪であるネクロマンサー/サウロンは、作品ではもやもやした光とか甲冑の姿でしか現れませんが、《まるで毛が無い》という結論に達することになろうかと思われます。そう、あのサウロンはツルッツルのズルムケオヤジだということになるんですね!多分相当テカッてると思うな!ではゴラムはどうかと申しますと、あいつちょっとだけ毛があるんですね。だから《悪/敵に限りなく近いが善の心も持ってる》ということになるんですよ。「一つの指輪が全てを総べる」のが『LOTR』の物語でしたが、こと『ホビット』に関しましては「毛の量が全てを総べる」物語だったんですな!いやはやなんとも! 《レヴュー》
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8位:ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う (監督:エドガー・ライト 2013年イギリス映画)
負け犬野郎がビールを飲んで飲んで飲みまくるハシゴ酒の途中、侵略宇宙人が現れてさあ大変!というドタバタですが、そのテーマは非常に重いものを孕んでいました。
それではこのハシゴ酒はなんだったのか?映画ではそれは描かれないけれども、多分彼は、そこでもう一度人生の頂点を再現して、そして、死にたかったのではないだろうか?彼は、全きの破滅こそを希求していたのではないだろうか?ゲイリーは、ハシゴ酒貫徹という"有終の美"を飾ってその人生を終えたかった。ゲイリーのこうした破滅願望が、全ての危機よりも優先したからこそ、彼は頑なにパブを回り続け、そこで酒を飲み続けたのだ。しかし、そんなゲイリーを破滅願望から救ったのは、皮肉にもこの異星人の侵略である。ゲイリーは、このロボットたちと相対することにより、自分自身が、己が自由さをまずその人生の第一義として生きてきたことに気づくのである。自分が決して負け犬でも落伍者でもなく、自らの欲することに忠実に生きてきた人間であるということを。そう、映画『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』は、死と破滅の願望に取りつかれた男が、自らの人生の意味に気づく、再生の物語だったのである。 《レヴュー》
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9位:ウルフ・オブ・ウォールストリート (監督:マーティン・スコセッシ 2013年アメリカ映画)
ある意味アメリカという国の最先端の既知外を描いた作品だということもできるでしょう。公開時は面白く観ましたが、今観たら単にうんざりさせられるだけかも。
物語はとことん下衆であり、気違いじみており、それと同時に、甘く危険な法悦に満ちている。ここで描かれるのは、強大なパワーと莫大なカネと止まる所を知らない欲望に操られ、着弾地点を見失ったまま大気圏外を邁進するICBMのように破滅へとひた走る男の生き様である。だが、スコセッシがこの作品で描こうとしたのは、欲望に囚われた男のデカダンスではない。盛者必衰のアイロニー、社会悪を糾弾するモラリズムでもない。歪んだ資本主義の果てのカリカチュア、アメリカ史の暗部を記述するジャーナリズムでもない。確かにそれらの要素はこの物語に存在するだろう。しかし映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の本質はそこではない。この映画の本質、それはぐつぐつと煮え立ち、暗く赤々と燃え盛る【熱狂】と【狂躁】なのである。 《レヴュー》
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10位:誰よりも狙われた男 (監督:アントン・コービン 2013年アメリカ・イギリス・ドイツ映画)
巨大で無慈悲なシステムと個人との拮抗、というテーマは、この作品のような国際諜報の世界だけではなく、どのような人の周りにも存在する問題なんですよね。
「大きな主語」の中に、往々にして人は取りこまれてしまう。そしてその"主語"の為に奉仕することになってしまう。奉仕するもの、それはロボットだ。ロボットであり、人間性を剥奪されたもののことだ。この非人間的なシステムの中で、人はいかにして【人間的要素】を持ち続けられるか。諜報作戦の中で人間的であろうとしたバッハマン、人権の名の元にテロ容疑者をかばう女性弁護士アナベル、気高くイスラム的であろうとして道を踏み外すアブドゥラ、そして国際社会の中でその人生を蹂躙され続けてきたイッサ。映画『誰よりも狙われた男』は、国際情勢という大きな物語の中で、小さな一個人の抱える【人間的要素】の在り処を探り出そうとするドラマだったのだ。《レヴュー》