今年面白かったインド映画10選+1 (2013年公開作まで)

今年は自分にとって「インド映画元年」ともいえるようなインド映画にはまりまくった1年でした。本当に衝撃的な出会いでしたね。詳しくはここのエントリーで書きましたが、もうほとんど毎日、朝から晩までインド映画を観ていましたよ。この間ざっと観た本数を数えたら、100本に迫る勢いでした。そしてそのどれもが面白く、また興味深い作品だったんです。しかしそれでも、まだまだ観るべき作品を観ていないような気がしてならず、まだまだ知識が浅いものであるように思えて、インド映画探訪の旅はどうにも終わりが見えません。
そんな今年観たインド映画の中から、心に残った10作を選ぼうと思いましたが、並べてみると新しい作品、分かり易い作品が多くなりました。この辺はにわかインド映画ファンの選びそうな作品ということで生暖かく傍観してあげてください。また、「あれが入ってない」「100本観てこの程度か」「ヒット作ばっかりじゃん」等の意見もあるかとは思いますが、この辺も初心者の至らなさということでご容赦ください(SRKの超有名作も何本か観て、これも凄まじく感銘を受けたのですが、王道すぎるのであえてランキングに入れないことにしました)。
ただ逆に、インド映画に馴染の無い方でも、ここで選んだ作品は面白く見られるものが多いのではないでしょうか。ある意味このランキングが、これからインド映画を観ようとされている方のガイドになればいいかと思っています。そうそう、自分のよく利用させてもらっているインドDVDのネットショップを紹介しておきますので、「そんなに面白いって言うんならDVD買ってみようか」と思った方は参考にされてください。最新インド映画DVDの入荷がとても早く、対応も発送も早い、という素晴らしいお店です。
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なお、面白かった作品がとても多かったものですから、今回は2013年公開作までということで絞らせてもらい、2014年公開作に関してはまた後日まとめてみようかと思っております。なにしろ2014年インド公開の話題作はまだ全て日本じゃ観られませんからね。そんなわけで行ってみることにします。

1位:Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela (監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー 2013年インド映画)


インド版ロミオとジュリエットとも言えるこの物語は、美しくもまた凄惨なラブストーリーとして大いに心に残り、自分がインド映画を観始めるきっかけともなった作品でした。まず最初に1本、といえばこれしか考えられません。

二人の出会い、高まる気持、人目を忍ぶ密会、結婚を誓う二人、そして駆け落ち。映画は二人の切ない恋の行方を、インド映画らしい躍動感溢れる踊りと美しい歌で盛り上げてゆくんです。そこに目の痛くなるほどの原色に彩られたインドの神々が踊る艶やかな祝祭シーンが盛り込まれ、その高揚はいやが上にも高められていきます。しかしそれと並行して、対立する二つの家の抗争が、町全てを巻き込みながら次第に血生臭いものへと化し、暴力と死がじわじわと画面を覆うのです。そして物語は、鮮烈で幻惑的な色彩美、匂い立つようなエキゾチシズム、熱狂と陶酔、そして死と生のコントラストに彩られながら、運命のクライマックスへとひた走ってゆくんです。 《レヴュー》

2位:チェイス (監督:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャーリヤ 2013年インド映画)


ひたすらゴージャスなアクションとダンスに魅せられました。輸入DVDで観たときは日本でも公開しなきゃおかしい!とブログで書きましたが、実現してしまいましたね。

オープニングが凄い(渋い)!バイク・アクションが凄い!ダンス・シーンが凄い!アーミル・カーンが凄い!とにかく全部凄い!2013年末に公開され、インド映画史上最高の興行収入を叩き出し、世界的にも稀な記録的興行収入を上げたという大ヒット・ボリウッド・ムービーがようやく日本でも公開されることとなりました!『きっと、うまくいく』のアーミル・カーンが主演のド派手なアクション、ということは予告編で知ってはいたのですが、実際観てみるとこれが!大ヒットもうなずける、ひたすらハイテンションで突っ走る最高にエキサイティングなノンストップ・アクション・ムービーだったのですよッ! 《レヴュー》

3位:Bhaag Milkha Bhaag(邦題:ミルカ) (監督:ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ 2013年インド映画)


実在するアスリートの数奇な運命を描いた、どこまでも熱く感動に満ちたスポーツドラマでした。そして2015年、『ミルカ』というタイトルでいよいよ日本公開されます。是非ご覧あれ!

この作品は、様々な苦難を体験しながら、それを乗り越えて頂点へと立つミルカーという一人の男の姿が描かれるが、その彼の持つパキスタンへの遺恨とその克服は、そのままインドとパキスタンとの遺恨を克服することへの願いに重なっていくのだろう。映画が表現しうるあらゆる要素を詰め込みながら、夢と希望とその大成を描くこの物語は、まさしく映画の中の映画と呼ぶに相応しい堂々たる完成度を持って観る者の胸に迫ってくるだろう。しかもこういったストーリーにもかかわらず、歌と踊りもきちんと盛り込まれ、楽しませることを忘れていない。スポーツにまるで興味のない自分ですら、この作品には十二分に感銘を受けた。これは見事と言っていい作品だろう。 《レヴュー》

4位:チェンナイ・エクスプレス〜愛と勇気のヒーロー参上〜 (監督:ローヒト・シェッティー 2013年インド映画)


シャー・ルク・カーン、ディーピカ・パドゥコーンというインド2大スターが共演したアクション&ラブコメディ。南インドの風光明媚な風景が素敵でした。日本語版DVDがリリースされています。

映画そのものもコメディらしく非常にテンポがよく、合間合間に「チェンナイアイアイエクスプレース♪」なんていうノリのいい歌が入ってポンポンとシーンが移り変わっていくんですね。主人公ラーフルはいつも途方に暮れているかジタバタしているかのどちらかで、ミーナーはいかにも気の強い娘さんという感じで、二人は最初ツンツンしあっていますが次第に打ち解けていくんです。そしてこの二人を気持の高まりを象徴するかのように劇中挿入される南インドの極彩色の祭りが、これがもう、もんの凄く美しく、そしてエキゾチシズムたっぷりなんですね!こうして主人公ラーフルの目を通し、最初「南インドこええ!南インド野蛮!南インド田舎!」と描かれていたものが、「南インド綺麗だなあ。南インドの人たち優しいなあ。南インド素朴でいいところだなあ」と変わってゆく様子、それを観客が追体験してゆくんですよ。 《レヴュー》

チェンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~ [DVD]

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5位:Kahaani(邦題:女神は二度微笑む) (監督:スジョイ・ゴーシュ 2012年インド映画)


超絶的な展開を迎えるサスペンス・スリラーの一級品とも言える作品です。来年『女神は二度微笑む』というタイトルで日本公開予定ですので、これも是非ご覧になって下さい。

映画はヴィディヤーと警察官ラナが、少ない情報から一人の男を探し回るという、探偵推理物語として進行してゆきます。しかし探索を経れば経るほど謎は深まり、国家ぐるみの不可思議な陰謀・隠蔽工作がそこに関与していることがほのめかされ、遂には殺し屋までが登場して冷酷な殺戮が進行してゆきます。さらに冒頭で描かれる地下鉄毒ガス事件がヴィディヤーの夫探索とどう関係してゆくのか殆ど描かれず、観る者もまたヴィディヤーと一緒に事件を推理してゆくことになるんです。果たしてヴィディヤーの夫はどこにいるのか、ミラン・ダムジーとは誰か、国家諜報部はなぜ捜索を中止させようとしているのか、そしてヴィディヤーはなぜ命を狙われるのか。コルカタで今、何が起こっているのか。謎が謎を呼び、サスペンスはいやが上にも高まってゆきます。 《レヴュー》

6位:Singham (監督:ローヒト・シェッティ 2011年インド映画)


正義の警官が大暴れを演じる笑っちゃうぐらい物凄いバイオレンス・アクション映画です。ここまでやられると拍手喝采するしかありません。

この『Singham』の面白さのひとつは、正義一直線のスィンガムが繰り出すド派手なアクションです。ワイヤーアクションとスローモーションを多用し、人はクルクル宙を舞うわ車はボンボン吹っ飛ぶわ、まるで重力なんか存在しないかのような奇想天外なアクションが描かれます。この限りなく誇張の甚だしいアクションが実にマンガチックで、爽快感たっぷりであると同時になんだか思わず「ぷっ」と笑ってしまいそうな馬鹿馬鹿しさがあり、そこがまたよかったりするんですよ。 《レヴュー》

7位:Delhi 6 (監督:ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ 2009年インド映画)


アメリカからインドにやってきた青年が目にするインドの美しさ、そして彼の直面する様々なインドの問題。アビシェーク・バッチャン、ソーナム・カプールの好演はもとよりA・R・ラフマーンの音楽が素晴らしかったです。

美しいインドと醜いインドの狭間の中で、主人公ローシャンもまた自らの抱えるアンビバレンツに悩まされることになる。それはアメリカ人として育った合理的なアイデンティティと、自らの中に流れるインドの血という気質との葛藤だ。さらにローシャンは、ヒンドゥー教徒イスラム教徒の父母を持ち、そのような異教徒同士の駆け落ちの中で生まれた男だったのだ。アンビバレンツはローシャンの恋した娘ビットゥーにも存在する。露出度の高い服を着、「TVタレントとして活躍したい」と夢見るビットゥーは、インドの現代的な女性であるが、その彼女は親の決めた相手との結婚、というインドの古い因習に心を引き裂かれてゆくのだ。そして、ローシャンの抱えるアンビバレンツ、ビットゥーの抱えるアンビバレンツは、実はそのまま、5000年の歴史と著しい経済成長の狭間にあるインドそのものが抱えるアンビバレンツを描くものだったのだ。 《レヴュー》

8位:Agneepath (監督:カラン・マルホートラ 2012年インド映画)


幼い頃父親を眼前で殺された男の、マグマのようにドロドロと熱く煮えたぎる復讐の物語。血と暴力との応酬が描かれるその合間に、夢のように挿入される歌と踊りがまた素晴らしいんです。

もう冒頭から怒涛の展開の連続です。悪鬼のような形相の敵役カーンチャーの登場、狂気に駆られ暴徒と化した村人、豪雨の中目の前で殺される父、ボンベイ黒社会の恐ろしい人身売買の描写、心身喪失状態のまま警官を殺してしまう主人公少年、黒社会に足を踏み入れたばかりに母や妹と離れて生きる主人公の孤独、その家族との絆、娼館の娘カーリー(プリヤンカー・チョープラー)との切なくささやかな愛、陰謀と殺戮、突然襲い掛かる悲劇、そして年月を経てもなお決して消えることのない、父を殺した男への深い憎悪。物語はこうして、ただただ復讐だけを誓って生きる一人の男の、嵐のように揺れ動く数奇な運命とその行方を、圧倒的なまでの情感で描いてゆくのです。そしてそれらに、インドならではの土俗と自然、文化と宗教が荒々しくもまた鮮やかな色調を加えているのですよ。 《レヴュー》

9位:Lootera (監督:ヴィクラマディティヤー・モートーワーニー 2013年インド映画)


ベンガル地方の長閑な田舎町で出会った男女の恋が、衝撃的な事件を迎えることにより、疑惑と不信に満ちた憎しみの物語へと変わってゆきます。文学的な雰囲気がたまらなくよかったです。

物語は後半から切なくもまた悲しい男女の愛と業との物語へと様変わりしてゆく。柔らかなベンガルの自然を描く前半から後半は冷たく厳しい冬山の別荘へと舞台を移す。それはヴァルンとパーキーの二人の関係の変化を表しているかのようだ。しかし緊張感は一気に増すものの、この後半でも文学的な薫りが全編を覆っているのだけは変わらない。実はこの物語、誰もが知るある有名な短編文学を基にしているそうなのだが、タイトルだけで内容がバレるので書かないでおこう。誰もが知る作品だけにクライマックスで陳腐化しないか心配な部分があったが、これは前半でもきちんと伏線が張ってあり、上手く物語の中に消化していたように思う。美しく静かに愛の残酷を描くこの物語は、しかしそれでも、愛は愛であり続けることを謳い上げるのだ。これは存分に打ちのめされた作品だった。 《レヴュー》

10位:マッキー (監督:S・S・ラージャマウリ 2012年インド映画)


殺されてハエに生まれ変わった男が復讐を誓う!?という荒唐無稽すぎる物語ですが、その荒唐無稽さがとんでもない面白さへと繋がってゆく傑作コメディです。

いやあ笑った笑った!そのあまりにとんがった「有り得なさ」具合に笑い転げて観ていました。人間から転生したハエの復讐劇、というお話だけでも「なんじゃそりゃ?」というキワモノ感満載なんですが、これを本当に成り立たせちゃってるところが凄いんですよ。「いやしかし、ハエでしょ?しかもたった一匹で、いったいどうやって復讐するの?」と思われるでしょうが、そこがこの映画の見所なんです。ブンブンまとわりついて鬱陶しがらせ、夜も眠れないほど消耗させるなんてまだ序の口。商談中の社長の邪魔をして破談に持ち込んだり、運転中の社長を苛立たせて大事故に持ち込んだり、しまいにはブチキレた社長が部屋中で銃をぶっ放し部屋をメチャクチャにさせたりするんだからオソロシイ! 《レヴュー》

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とまあ10本選びましたが、やっぱり2014年作がないのも寂しい、ということで、「暫定:今年面白かったインド映画2014年公開版」を置いときます。この時点で『Happy New Year』も『Haider』もまだ観てません!

Bang Bang! (監督:シッダールト・アーナンド)
Ek Villain (監督:モーヒト・スーリー)
Hawaa Hawaai (監督:アモール・グプテー)
Hasee Toh Phasee (監督:ヴィニル・マシュー)
2 States (監督:アビシェーク・ヴァルマン)
Queen (監督:ヴィカース・ベヘル)
Highway (監督:イムティヤーズ・アリー)
Filmistaan (監督:ニティン・カッカル)
Khoobsurat (監督:シャシャンカー・ゴーシュ)

…さて、あれこれ書きましたがなんか忘れてませんか、と。そう、あの暴力警官映画です!だってこれ、別格なんだもん!

別格:ダバング 大胆不敵 (監督:アビナウ・シン・カシュヤップ 2010年インド映画)


ベルトくいくい!!

チュルブルは跳ぶ、重力など存在せぬかのように。チュルブルは駆ける、世界で最も早い獣のように。彼の剛力は全てのものをなぎ倒し、石壁さえも破り、敵を高々と宙へ放り投げる。鬼神の如く、という言葉があるけれども、この時チュルブルはまさしく活殺自在の鬼神なのであり、それはヒンドゥーの破壊創造神シヴァそのものだ。そう、インド映画は、その画面の中で疾風迅雷の活躍を見せるヒーローに、ヒンドゥーの神を重ね合わせているに違いないのだ。この時、一介の警察官でしかなかったチュルブルに、鬼神が宿るのである。神であり鬼神であるチュルブルは無敵であり、ゆえに「恐れるものは何もない(=Dabangg)」、そして悪を成すものは徹底的に叩き潰す、なぜならその勧善懲悪こそが神意だからである。 《レヴュー》