■ゾンビ大陸 アフリカン (監督:フォード・ブラザーズ(ハワード・J・フォード&ジョン・フォード) 2010年イギリス映画)
ゾンビが大発生したアフリカ大陸から逃げ出そうとしたアメリカ軍機が墜落、そのただ一人の生き残りの男と、ゾンビに襲われた村で散り散りになった息子を探すアフリカ軍兵士が出会い、手に入れた車で生き残りを賭けアフリカ大陸を横断しようとする物語である。主要登場人物となるのは殆どこの二人の男だけで、物語はこの二人がその道々で立ち寄る様々な場所を描きながら、淡々と進んでゆく。そしてこの、淡々とした物語運びがいい。それと同時に、ゾンビ・ホラーの舞台としての”暗黒大陸”アフリカがいい。灼熱の太陽がじりじりと照り付け二人の生命を磨り減らす。走行する車の前には瓦礫、泥濘、生い茂る草木、砂漠地帯などまともに車も走れない悪路が果てしなく続く。ガソリンの給油場所も飲み水となる水源も乏しい。そしてゾンビどもは後から後から湧いて出て、二人の男に襲いかかる。己の生命にしがみつきながらひた走る二人の道行きは、地獄の耐久レースを強いられているかのようだ。そしてゴールとなるべき場所は、本当にそこがゴールなのかどうかすら定かではない。即ち、ゴールの見えない脱出行を、文字通り暗中模索のなかで繰り広げなければならないのだ。この茫漠たる脱出ドラマを可能にしているのが、果てしなく、あまりに広大であり、そしてどこに死が待つか分からない、アフリカの大地なのだ。アフリカは同時に、未だ呪術の生きる土地だ。"ゾンビ"という言葉の元となった秘儀を施すブードゥー教は西アフリカ起源なのらしく、そう考えるなら、アフリカン・ゾンビはまさにゾンビの源流と言う事も出来るのだ。だからこの『ゾンビ大陸 アフリカン』に登場するゾンビは、欧米白人諸国を舞台にしたゾンビ・ドラマの、"人間の成れの果て"のようなゾンビとは違い、ひどく呪術的で、どことなく悪霊めいたものとして見えてしまう。微妙に怖さが違うのだ。そんなゾンビから逃げ回りながら、あるいは戦いながら旅を続ける男二人は、もともとが軍人であることから不屈の意思と機敏な機動力を持ち、その立ち回りに無駄が無いのがまたいい。泣き言や弱音を言わず黙々と脱出行を続ける。だから淡々としているのだ。そして生き残った二人はアフリカの大地の上ではあまりにもちっぽけで孤独だ。それは砂漠の砂に飲み込まれようとしてもがきあがく蟻のようだ。この孤独さ、生のありかたのあまりの矮小さ。『ゾンビ大陸 アフリカン』は、ある種、"地獄の詩情"とも呼ぶべき不思議な情感を湛えた、ゾンビ映画の佳作といえるだろう。
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