■ミケランジェロの暗号 (監督:ウォルフガング・ムルンベルガー 2010年オーストリア映画)
- 『ミケランジェロの暗号』というタイトルだが『ダヴィンチ・コード』のような歴史ミステリというわけではない。
- そもそも"暗号"という要素も無くせいぜい謎掛け程度なのでそういったものを期待するとはぐらかされるかもしれない。
- 舞台は第2次大戦勃発の最中にあるウィーン。ここで新たに発見されたミケランジェロの絵画を所有する画商と、その絵画を奪いムッソリーニに献上することでイタリアとの同盟を強固にせんとするナチス・ドイツとの虚々実々の駆け引きを描いたのがこの映画である。
- 主人公は画商の息子ヴィクトル。そして彼の一家の使用人でヴィクトルとも友人でありながらナチス親衛隊員となったルディ。
- かつては使用人だったルディはナチス隊員になることでユダヤ人のヴィクトル一家に暴力的に振舞う。ただ、この映画の面白いところはルディが完全なナチスの冷血漢として描かれているわけではなく、ヴィクトル一家に多少なりとも恩義を感じているという部分だ。もちろんルディはナチスに忠誠を誓い隊員の範疇を超えることは決してしないが、心のどこかにやましさを憶えている。このルディの心情がこの後の物語の展開に大きく影響してくる。
- ただこの導入部は人物紹介と説明が長くて若干退屈。
- ホロコーストが迫り来る中ヴィクトルの一家はミケランジェロの絵の没収を恐れ2枚の贋作を作る。一家は逮捕されるが、ナチスが手にしたミケランジェロは後に贋作の一枚だということが分かってしまう。
- 贋のミケランジェロを掴まされ、イタリアとの関係が危うくなることを恐れたナチスはルディに特命を出し収容所のヴィクトルを尋問することを命令する。
- いくら国宝級の絵画とはいえ、そもそも同盟国であるイタリアとドイツの関係が危うくなるほどの最重要要素であるのかどうかはちょいと首をひねるし、それを血眼になって探すドイツももうちょっと他にやることがあるんじゃないのかとは思う。ただユダヤ人迫害だのオカルトだの本筋を外れたことをやりたがるナチスらしいといえばナチスらしいかもしれない。
- しかし本物のミケランジェロのありかはヴィクトルの父しか知らず、そしてその父は既に収容所で獄死していた。ヴィクトルに謎の言葉を残して。
- ヴィクトルをベルリンに移送するルディ、しかし二人の乗った飛行機はパルチザンの攻撃に遭い墜落!そしてここから映画は俄然面白くなる。
- なんとヴィクトルはルディのナチス制服を奪い、自分はルディであり、一緒にいるのはユダヤ人のヴィクトルである、と救出しに来たナチス軍をまんまと騙してしまう!
- こうして二人の立場は逆転、ナチスに成りすましたヴィクトルはいまだ収容所に監禁された母を救うために一世一代の大勝負に出るのだ。
- ここでユダヤ人扱いされ散々ボコられるルディの悲惨さ情けなさがまた可笑しい。
- SS隊員に成りすましたヴィクトルだったが、かといってルディに熾烈に復讐するかというとそうでもない。やはりルディと同じように、ヴィクトルもまた相手に対して苛烈になれ切れない何かを感じている。そうでなければそもそも飛行機事故にあった際にルディを助けていない。いわゆる冷血極悪なナチスと悲惨な被害者であるユダヤ人、といった戦争映画によくある図式ではなく、この二人の捻じくれた友情を中心に描くことにより、物語は厚みのあるものとなっている。
- ヴィクトルの正体が発覚しはしないか?ヴィクトルは母を救うことが出来るか?そしてミケランジェロの絵画の行方は?ボコボコにされてるルディはどうなっちゃうのか?これら様々なサスペンスを抱えながら、映画はクライマックスへと向かってゆくのだ。