■アンストッパブル (監督:トニー・スコット 2010年アメリカ映画)
アンストッパボー!それは止められない!
アンタッチャボー!それは触れることもできない!
アンブレーカボー!それはぶっ壊したら大変なことになる!
アンビリーバボー!しかしそれをやり遂げようとする男たちがいた!
それが映画『アンストッパブル』なんだぜベイベ!
お正月第一弾に観た映画は「このままどこまでも突き進みまくってやりますぜ!?」とばかりに景気よく列車が爆走する『アンストッパブル』でございます。ああそうさオレはどこまでも自分の道を突き進むのさ!もう誰もオレを止めることはできない!線路は続くよどこまでも!とか言いつつ実は単に迷走と遁走のトリコ仕掛けの明け暮れでございますけどね!いやすんません私事で!
なにしろこの『アンストッパブル』、「暴走列車が止まんないと大惨事になるからそれを止めるんだよ!」というあまりにも分かりやすいプロットのお話なんでありますね!いやいいなあ分かりやすい話!分かりやすい話サイコー!オレ的には昔流行った《パニック映画》の香りを嗅ぎましたね!好きだったなあ『ポセイドン・アドベンチャー』とか『タワーリング・インフェルノ』とか!『エアポートなんちゃら』いうシリーズもありましたよね!かつてこういう映画を観てその手に汗握るドキドキ感に映画に目覚めたオレとしては、この『アンストッパブル』のドキドキ感はまさに「こういう映画が好きだったんだよなーオレ!」という気持ちが蘇ってきて楽しかったですよ!まさに映画の原初的な楽しさに溢れた映画じゃないっすか!
あとこの映画を監督したトニー・スコットって好きな監督なんですよー。初期の頃のは実はあんまり観ていないんですが、『エネミー・オブ・アメリカ』あたりからなんだか気になる監督になりましたね。『マイ・ボディーガード』とか『ドミノ』とか好きだったし、前作『サブウェイ123 激突』もよかったなあ。この監督って、ガチャガチャした細かいカットとか毒々しい原色の目立つフィルム処理とかドヤ顔もんのエフェクトかけた映像作りが得意で、音楽なんかも耳障りな金属音が鳴り響くようなものを好んで使い、なんだか意識して気に障る演出ばかりしたがるんですよね。兄貴のリドリー・スコットと違って絶対巨匠っぽい腰の据わった映画なんか撮りたくないって感じが、オレなんかは逆にとっても愉快なんですわ。
この『アンストッパブル』も実にこの監督らしい演出なんですが、今までの映画が「手法のための手法」っぽかったのと比べ、それがとても効果的に生かされているってことが言えるんじゃないかと思うんですよ。というか、この《列車暴走パニック》というド派手でけたたましい題材が、そもそもトニー監督が撮るべき題材の映画だったということもできるかもしれませんね。
ドラマのパニック要素にばかり目が行きがちなこの映画、よく観ると実はとてもトニー監督らしい映像美に溢れているんですね。それはなんと言ってもこの映画の本当の主役である列車車両の、赤・青・黄色に色分けされた実に目を奪う原色塗装のビビッドさと、その重量感と威容を肌で感じさせるような撮り方にあらわれているんですよ。オレ、テツオタとかじゃ全然無いけど、この映画に出てきた列車車両って、どれもこれも重々しくてスゲエカッコいいなあ、と思えたぐらいなんですよ。普通に撮ればその辺のどこにでもある煤けた列車を、ここまで綺麗に(というかギラギラと)撮れてるってことが、まずトニー監督らしいと思ったんですよ。そしてその列車が爆走するアメリカの工業地帯を、ソリッドなブルーを基調にした映像で撮る事で、より一層人工的で冷たいものとして見せ、この工業地帯の映像もまた無機質でとても美しいんですよね。
さらに爆走する列車のガタコンガタコンいう騒音も、トニー監督らしい実に耳障りで神経症的な音として処理されているように感じましたね。この列車がいかに化け物のように馬鹿デカく超重量級で禍々しいまでのパワーに溢れているのか、その音だけで全てが分かるようにされているんですよ。それに被さる音楽がまた、トニー監督お得意のメタリックなインダストリアル・ノイズ・ミュージックで、列車の重々しくいかにも金属の塊だという存在感を増しているんですよね。
すなわちこの『アンストッパブル』、トニー・スコット監督のお家芸をフルに活かし、インダストリアルな列車とインダストリアルな風景とインダストリアルな音響をこれでもかと描いた映画じゃないかと思うんですよね。もうトニー・スコット好きには感無量の良作でありましたよ!ただ問題はそんなトニー監督のDVDを買うかというと、実はあんまり買ったことが無い、という部分にこの監督のちょっと喰い足りないというか惜しいところがあるかもしれませんね。