倒されるべき真の敵はなんだったのか〜映画『ヒックとドラゴン』

ヒックとドラゴン(監督 ディーン・デュボア/クリス・サンダース 2010年アメリカ映画)

■ドラゴンVSバイキング

ヒックとドラゴン』、最初ノーチェックだったのですがTwitterで結構評判が良かったので観に行きました。舞台はバイキングの住む島、ここではドラゴンが日夜襲来し、今日もバイキングたちとの激しい戦いが繰り広げられていました。主人公ヒックはバイキング首領の息子でしたが、戦いには向かないドジな子だったんですね。ヒックはそれを挽回すべく、頑張って一匹のドラゴンを撃墜します。

ヒックの撃ち落としたドラゴン、トゥースは漆黒の体躯に黄色く輝く目をしていて、動きは俊敏、攻撃力も高く、最強と恐れられていたドラゴンでした。トゥースにとどめを刺そうとしたヒックでしたが、可哀想になり秘密に看病することになるんです。そしてそのうち、ヒックとドラゴンは心を通わせてゆくんですね。段々愛嬌を見せはじめたトゥースは、なんだか大きな猫族みたいでなかなか可愛いんですよ。このトゥース、何かに似てるなあと思ってたら、一緒に観ていた相方さんが「スティッチみたいだった」と言ってたんです。調べたら、監督のディーン・デュボア/クリス・サンダースはアニメ『リロ&スティッチ』も監督していたらしい。『リロ&スティッチ』、オレは観ていないんですが、ヒックとモンスターは『リロ&スティッチ』の二人の関係とも似ているらしいですね。『ヒックとドラゴン』を観て気に入った方はチェックされてみるといいかもしれません。

■現代アメリカ社会の暗喩

原作はイギリスの作家クレシッダ・コーウェルのものなのですが、これも調べてみると、原作と映画では大分違っているらしい。原作では人間はドラゴン語によってドラゴンと会話できるばかりではなく、ドラゴンは人間のペットとして登場するんです。これが映画だと人間とドラゴンは言葉も通じない敵対関係にある。このへんでまず大きくテーマが違いますよね。映画のテーマをみてみると、コミュニケーション不能とされる敵対種族=ドラゴンが存在し、バイキングたちは常にそのドラゴンと戦っている。つまりバイキングの社会は常に戦時下にあるということです。その中で子供たちはドラゴン征伐の為の軍事教練を受け、ドラゴンを倒す事が即ち一人前になることとされている。これ、要するに現代のアメリカ社会ということなんですね。

第2時世界大戦以降、戦争をしていなかった事がなかったといわれるアメリカですが、その社会のありかたがこの映画に反映されていると思うんです。アニミスティックで牧歌的なイギリス作家の原作をアメリカに持ち込みアメリカ的な物語として成立させようとすると、こういう改編になるという部分がおもしろいですね。しかしその中で、主人公ヒックは彼の住む社会の趨勢に反し敵対種族=ドラゴンと対話し共存しようとするんです。こういうテーマの流れも実にアメリカらしい。そしてヒックと彼の所属するバイキング社会は、真の敵と遭遇する事になるんですが、その"真の敵"をどう解釈するかでこの映画の観方も変わってくるかもしれません。何故なら「ドラゴンとの共存共栄」を目指しながらも、やはり大規模な戦闘は成され、痛ましい犠牲があるからです。一つの解釈をするなら、ここで倒されるべきだったもの、倒されたものは、アメリカの覇権主義、そして"恐怖という名の支配"という最も強大で凶暴なドラゴンだったのかもしれません。

■胸躍る冒険活劇

ただそんな面倒臭いことを言わなくても、十分楽しめる冒険活劇として仕上がっていることは確かです。ドラゴンに乗って飛翔し空を駆ける映像はさすがに心踊らされますし、なんといってもバラエティ豊かなドラゴンの造型がなにしろ楽しいんです。様々なドラゴンが個性豊かな動きや攻撃方法を見せるところなどはかつて特撮怪獣に魅了されていた子供心を呼び覚まされるようです。劇中登場するドラゴン図鑑では、映画で姿を現さなかったドラゴンのことも書き記されているんですが、これらのドラゴンが動きまわるところが観たくてたまりませんでした。難を言えば物語の構成が直線的で膨らみに欠けることでしょうか。ちなみに3Dでの鑑賞でしたが、これも非常に楽しめました。

ヒックとドラゴン 予告編


How to Train Your Dragon

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ヒックとドラゴン〈1〉伝説の怪物 (How to Train Your Dragon (Japanese))

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