- 作者: 中野京子
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2009/05/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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また、歴史や文芸に疎いオレのような人間でも分かりやすく丁寧に最初から説明されていることも好感が持てた。今回はボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』やルーベンス『メデューサの首』、 伝ブリューゲル『イカロスの墜落』、ドラクロワ『怒れるメディア』やベックリン『ケンタウロスの闘い』など、神話を材にした作品も多く語られているが、こういった伝説に造詣が深い人ならば言わずもがなであろう内容を一から説明してくれているので、オレのような不勉強な輩にも実に分かりやすくその内容が伝わった。
今回も様々な『怖い絵』がお披露目されている。寂しげな微笑を浮かべたあどけない少女の肖像、伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』は、その少女がおぞましい事情により不当な死罪を言い渡され、牢獄の中で処刑を待つ日々の中その肖像が描かれたことを伝える。
レッドグレイヴ『かわいそうな先生』は、喪服を着た美しい令嬢の表情に隠された19世紀ヴィクトリア朝時代の大英帝国の、女性差別が起こす悲哀を記している。
レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』はその絵画構図の中から天才ダ・ヴィンチが幼少時に叔父から受けたとされる性的陵辱を透かし見せる。
アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』は貴族的な人々が集い微笑むありふれた絵の中に去勢歌手であるカストラートの残酷な運命とその黄昏を見出す。
今回一番"怖い絵"だったのはホガース『ジン横丁』だろうか。粗雑なジンに酔い痴れ廃人となった人々が荒廃した町の中で餓鬼のように烏合するさまを描いたこの絵は、まさに地獄絵図としかいいようのない絵であり慄然とさせられた。