■ワルキューレ (監督:ブライアン・シンガー 2008年 アメリカ・ドイツ映画)
未遂に終わったヒトラー暗殺計画を題材にしている、というのには興味が湧いたが、この題材でブライアン・シンガーでトム・クルーズは有り得なくね?と思い劇場公開はスルー。で、今回DVDが出たので観てみたのだが、やっぱり最初の不安通りブライアン・シンガーでトム・クルーズでこの題材は有り得なかったな…。
暗殺未遂という史実を描いている以上、この映画で描かれる暗殺計画はどうしたって最後に失敗するというのは観る前から誰でも分かっているわけで、あとはそれをどう描くかだけの問題になってしまうんだよな。だから興味は実際の所どのように計画されどのように遂行され、そしてどのように失敗しどのように終息したかということなんだが、これをそのままやると単にドキュメンタリーにしかならない。まあドキュメンタリーならドキュメンタリーでも構わないんだけれども、娯楽作品として描こうとするならそこに製作者側の視点なり切り口なり主張なりのプラスアルファが必要になるわけでしょ。つまりスケベ心が必要だってことでしょ。だから血湧き肉踊る冒険活劇にしたっていいし、ナチスの退廃を描くヴィスコンティみたいなアート映画にしたっていいわけでしょ。
でもこれがブライアン・シンガーでトム・クルーズで、というのがどうにもよく分かんなくて、製作総指揮はトム君自身みたいだから、きっとこの企画で主人公やりたくてしょうがなかったってことなんだろうけど、どう見たってアメリカ人にしか見えないトム君がドイツ人将校演じるってだけでもう訳が分からないんですよ。実際の所トム君ドイツ人の血が混じってるというけど、そんなことよりまず《ドイツ人将校》って佇まいじゃないじゃんトム君。俳優のトム君って実はオレ嫌いじゃないんだけど、顔が明るいって言うかもろスター顔なんだもん。でもこういう映画だったらトム君ではなくとも主人公はスター俳優じゃなかったほうがよかったんじゃないのかしらん。また、スター俳優起用するなら、素直にアクション映画にして、最後は付け足しでいいから「しかしヒトラーの野望は最後には消え去るのだッ!」とか盛り上げて終わればよかったじゃん。
で映画の方なんだけれど、絵ヅラがなんだかこざっぱりとして小奇麗なんだよね。だからナチスの禍々しさとかどす黒さとかが画面に出てこないのよ。歴史に名だたる大悪役であるナチスドイツなんだから、もっと憎憎しく描いたって良い訳じゃん。でもみんななんだかアスレチッククラブ帰りでシャワー浴びてボディソープの匂いさせていそうな連中ばかりなのよ。これじゃあ敵役として盛り上がらんだろ。味方側にも汗臭さとか男臭さとか計画失敗を恐れる恐怖の臭いとかがしてこないのよ。これってやっぱりゲイ監督ブライアン・シンガーの性癖というか趣味なんだろうな。
だからホモソーシャルな男同士の結託と抑圧や弾圧されたものの反撃といったテーマではブライアン・シンガーらしいと言えば言えるんだけれども、戦時下という状況の中での生々しい人間同士の感情や思惑のぶつかり合い、という部分は綺麗に流されちゃってるんだよな。なんだか暗殺よりも消臭とヘアスタイル気にしていそうな連中ばっかでさ。もうね、大義はあったとしても人ぶっ殺すわけだから、ぶっ殺すなりの血生臭い欲求とか狂気とかはあって然るべきだったんじゃないかな。その辺の汚さやドロドロしたものが無かったのが、なんだか淡白に終わってしまったこの映画の敗因だったんではないかしらん。
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