それはトゥーフェイスだったッ!?

  • 月曜日。会社の後輩K君が顔の右半分に大きな白いシートのようなものを貼って出社してくる。
  • 「どうしたんだその顔は!?」と騒然とする事務所の面々。
  • 半スケキヨ状態の顔をトホホに曇らし、何があったか説明するK君。
  • 休みの日に釣りに行ったK君。そのまま外で居眠りしてしまい、横向きで寝ていたせいで顔の半分だけが焼けてしまった。あまりにこんがり焼けてしまった為に痛くてしょうがなく、「熱さまシート」を貼っての出社だったのらしい。
  • 「顔が熱いです…。今日は早く帰って顔冷やしたいです…」と半泣きのK君。
  • しかしそんなK君に同情するほどオレの会社の連中は優しくも心暖かくも無い。
  • 「なにこれ日焼けって言うより生焼け?」「ミディアムレア?」「血の滴るようなステーキ?」「これはバットマントゥーフェイスだな」「いや、マジンガーZに出てくるアシュラ男爵だろ」「人造人間キカイダーもこんな感じじゃなかったっけ」「紅白が綺麗だから運動会、ということでどうだ」「紅白なら歌合戦だろ」「どっちにしろ縁起物という事だな」「K君自体は縁起の悪い男だがな」「もともと辛気臭い男だったからな」「目つきが陰気だもの」「確かにその通り」「確かに」「わはは」「わはははは」「わははははは」などと、本人を目の前にして事務所中言いたい放題で盛り上がっている。本当に血も涙も無い連中である。
  • (注:発言の約8割はオレのものである)
  • これを傍らで聞いていたK君、もとから情けない顔をさらに情けなくして肩を落としている。これが漫画なら「どよーん」という擬音が入ってもおかしくないぐらいだ。
  • これはちょっと言い過ぎたか、と思いすかさずフォローを始める事務所の連中(約8割はオレが言ったのだが)。
  • 「今赤いだけだけど、黒くなるとヤヴァイよね」「どっちにしろ赤白は目立ちすぎて不憫だなあ」「もう半分も焼くといいんじゃない?」「今度はウェルダンにな」「でも焼き間違えて今度は真ん中に白い筋が残ったりしてな」「今赤くなってるところがもっと焼けて赤黒になったりとか」「ドーラン塗って顔全部白くすれば?」「逆に顔全部赤くするという手もあるな」「でもK君ほくろが多いからそれで真っ赤だとイチゴだろうよ」「真っ赤に顔塗った女ってデヴィッド・リンチの映画に出てなかったっけ」「あーいたような気がするー」「笑ったよねー」「笑った笑った」「キモかったー」「頭おかしすぎるわあれ」「ぎゃはは」「ぎゃはははは」「ぎゃははははは」…などと結局はフォローにもなんにもなっていなかったのであった。
  • (注:発言の約10割はオレのものである)
  • といわけで周囲のあまりにも心無い発言の数々に身も心も打ちひしがれ、その日一日萎びたイソギンチャクのような風情で仕事をする哀れなK君であった。
  • そして日にちが経ち今日。K君の顔にさらなる異変が起こった。なんとポツポツと水ぶくれが出来始めたのである。そんなK君の顔を観てオレはついこう叫んでしまった。
  • 「マ、マタンゴ!?」