憂鬱と悲哀のサンバ

■上司と同じ
オレの会社の別事業所のM君の話だ。その頃繁忙期ということで毎日が残業の連続、仕事が深夜に及びとうとうカプセルホテルに泊まるはめになったM君。その時一緒にカプセルに泊まることになった彼の上司のH氏が、毎日忙しい思いをさせて不憫だ、ここは替えの下着ぐらい俺に買わせてくれ、と二人でコンビニに行ったのだという。そしてH氏はM君と自分の分、パンツを2枚買ったのだが、コンビニにあったのは同じ柄のものだけであった。じゃあこれ履いてくれ、とパンツを渡されたM君だったが、その時なにか言いようのない悲しみに襲われたのだという。その悲しみは、残業続きの毎日が彼に感じさせたものではない。彼は、上司と御揃いのパンツを履かねばならない自分が悲しかったのだという。

■昨日と同じ
日夜酒席に明け暮れ酒でどんより濁った眼には太陽が黄色く見えて堪らないあたかもカミュの『異邦人』の如き日々を送るオレであるが、その日も外で会社の仲間達と親の敵のように痛飲し、家にはたどり着いたのはいいものの洋服着たまま布団で眠ってしまったのであった。オレは会社に私服で出勤してるのでスーツで寝た訳ではないが、なにしろ次の日の朝はなかなか起きることが出来ず、時間ギリギリまで寝て昨日着てた服のまんま会社に行ったという訳だ。つまり二日間着っぱなしである。当然下着もそのまんまである。朦朧としながら一日の仕事を何とか遣り遂げ、帰りに別の部署の女性社員Kちゃんと顔を合わせたので「いやあまたやっちまったぜ!」などと昨日の惨状を話して聞かせた。「服着たまま寝ちまったぜ!勿論風呂なんか入ってないからな!」と己のだらしなさを意味も無く自慢するオレ。「ううう…早く帰ってお風呂入ってください…。」とKちゃん。「当然下着も替えてないのさ!わはは!」「…もういいです!近寄んないで下さい!」と当然の如く眉間に皺を寄せるKちゃん。こうしてデリカシーの無い下品なオヤジは若い娘達から嫌われてゆくのである。身から出た錆、というのはまさにこのことであろう。(教訓的)

■それはおいしい
オレの事務所のA君がこの間電話で「お忙しい所すいません」と言う所を「おいしい所すいません」と言っていた。ああ…君自身がオイシイよAよ…。

■恋は素敵
最近、職場の部下であるA君の顔が妙に荒んでいる。肌が荒れまくっているのである。干上がった田んぼのようにカピカピなのである。何かあったのだろうか。仕事のせいだろうか。ここのところ仕事はたいした忙しくなく、大体7時には帰れているのだが。やはり私生活が乱れているのだろうか。A君が交際しているフィリピンパブのフィリピンギャルに旦那と子供がいるという事実にやっと気付いたのだろうか。今まではそんな現実知りたくない、と頑なに耳を傾けようとしなかったA君だったのだが。なにしろその事実を持ち出すと「そんなの嘘だ!俺は彼女から訊かされていない!」と怒りむくれイジケるのである。恋は盲目、とはこのことである。所帯持ちのフィリピンギャルに数十万貢ぐのも恋の力あればこそである。どうもそのフィリピンパブのボーイさんまで「ちょっと入れ込み過ぎだからもう止めさせたほうがいい」などと言っているらしい。
何故こんな事を知っているかというと職場の他の従業員もよく行く店だからである。別に何も訊かなくとも皆さんオレの耳に入れてくれるのである。それにしても普通ならケツの毛まで毟るのが商売の方からストップが掛かるなんて、尋常じゃない恋の力である。本国の両親にも送金しているらしいが、こうなるともはや聖人である。彼はフィリピンギャルとその旦那と子供とその親まで養っているということになるからである。遠回しに「A君、貯金とかちゃんとやってるのか?」などと訊くとバサバサの顔とボサボサの髪で血走った目の下に隈を作ったA君が「大丈夫です、お金ならありますから」と薄笑いを浮かべて言うのである。いろいろ情報をまとめると、そのフィリピンギャルは現在本国に帰っているのらしい。多分家族水入らずでな!日本は半月留守にするのだという。なるほどそういうことだったのか。A君、いい機会だ、早く目を覚ましてくれ…。