最近読んだマンガ:田邊 剛 『累(かさね)』、『アウトサイダー』

■累(かさね) 巻之壱 / 田邊 剛asin:4757735790
三遊亭円朝原作『真景累ヶ淵』を漫画化、第1巻。しかしこうして読んでみると日本を代表する怪談であるはずの『累ヶ淵』の物語を自分がまるで知らなかったことに逆に驚いた。
浄瑠璃三味線の女師匠・豊志賀は芸がしっかりした女っぷりのいい三味線師匠として知られていた。その豊志賀の稽古場に奉公で住み着いた新吉は、ある日彼女と深い仲になってしまう。折りしも新吉は、奉公前に噂で聞かされていた、豊志賀の家に棲み着く亡霊の姿を目にするようになる。そして隠されていた血塗れの過去が夜の闇に蠢き、豊志賀の顔には醜い腫れ物が出来初め…。
作者独特のしっかりとした構成で語られるこの物語は、虚仮脅かしなど使わずその圧倒的な画力でゆっくりじわじわと恐怖を盛り上げてゆく。なにより幽霊なぞよりも豊志賀の暗く燃え上がる女の嫉妬と情念のさまが凄まじい。嫉妬の為に人はどれだけ非道になれるか。夜叉と化した豊志賀の狂気が、逆に人というものの哀れさ愚かさを訴えかける。第1巻にして早くも大傑作の予感。
なにしろ本当に絵が巧い。今までどこにいたんだ?って思っちゃうぐらい。怪談好きの方には是非お奨めしちゃいたくなる作品です。
8月には尾上菊之助黒木瞳主演、『リング』の中田英夫監督により映画化公開予定。
※参考『真景累ヶ淵』 三遊亭円朝



アウトサイダー / 田邊 剛asin:4757735804
ラブクラフトアウトサイダー』、チェーホフ『中二階にある家』、ゴーリキー『二十六人の男と一人の少女』の短編小説の漫画化と、オリジナル連作短編『呪画』五篇収録。
原作付き漫画は作者の習作といった位置にあるようだが、書き込まれた描線としっかりとした正攻法の構成は開花しつつある資質をうかがわせて実に初々しい出来となっている。また閉塞的な状況と、現実から一歩引いた主人公の物語を原作として選ぶところにも田邊の作話の方向性を感じさせて面白い。
一方オリジナルの『呪画』は墨絵の中に悪霊を閉じ込め、それに取り憑かれていた人間達の心の闇を払うといういわば”憑き物落とし”の物語で、悪霊たちの描写はどれも迫力に満ち、そしてどれもが単なる怪奇譚で終わらない余韻のあるドラマとして完結しているところに作者の非凡さを感じた。