電車の座席の真向かいに座ったのは16,7ぐらいの若い娘だった。
暗めの色のノースリーブのワンピースは夏らしい花柄のテキスタイル。
量販店で数百円で売られているようなビーチサンダルを履き、足下にはビニール製のシースルーのバッグが置かれていた。
彼女は足を組み膝の上に皺だらけのTV雑誌を載せると、胡麻粒でも探すかのように大きく背中を丸め、その雑誌を読み始めた。
流行のアイドルか何かが載っているのだろうか、最初のページと次のページを神経質に行きつ戻りつしながら吸い付くように雑誌に目をやっている。
暫くすると彼女は左手を後頭部にやり、髪の毛を弄りだし、その中の一本を中指と親指で選び出すと人差し指を当ててツッ、と抜いた。
そしてまた頭の別の部分に手を這わせ、指先で頭皮をまさぐりながら、同じように一本の髪の毛を選び出すと、ツッと抜いた。
そしてまた。
そしてまた。
抜かれた髪の毛は無造作に電車の床に捨てられてゆく。
次第に髪の毛をまさぐる手は掻き毟る様な動作に変わっていった。
そして彼女だけに判る抜かれるべき髪の毛を一本ずつ選別し、それを機械のような正確さで抜いていくのだった。
ツッ。
ツッ。
ツッ。
髪の毛を抜いている間にも雑誌からは決して目を放さない。
既に足下は抜かれた髪の毛で黒ずん見え初めている。
しかしまだ彼女は背中を丸め、髪の毛を抜き続けた。
全ての髪の毛を抜かなければ終わりが無いかのように。
ツッ。
ツッ。
ツッ。
繰り返し、繰り返し。