それは劇薬だった

ある休日のこと。
日頃不摂生と暴飲暴食生活を我が世の春とばかりに謳歌しているオレであるが、たまには野菜でも摂らにゃああかんじゃろうと、野菜ジュースを飲むことにしたのである。そして「1日1本!12種類の野菜!」とかいう有難い名前の野菜ジュースをなみなみとコップに注ぐと、「やっぱこれがなけりゃあ始まらんじゃろう」と、隠し持っていた伝家の宝刀ペッパーソースを懐から取り出し、おもむろにジュースにたらしたのである。そう、オレは常時ペッパーソースを肌身離さず携帯し、いついかなる時でも脳内に灼熱の熱帯を呼び込めるように準備しているのである。刺激物が好きなのである。かくいうこのオレ様もペッパーのようにピリリと辛い刺激的な男であることは言わずもがなのことであろう。(すいません、ちょっと嘘です)


しかしこの時のペッパーソースが悪魔のペッパーソース、「デスソース」であったことから全ての悲劇は始まったのだ。実は辛さを表す単位には「スコヴィル値」というものが存在するが*1、この「デスソース」はタバスコの23倍のスコヴィル値=辛さを持つ恐るべきソースなのである。*2


ここで運命の歯車は狂ってゆく。一滴のつもりで入れた筈のデスソースは、意に反してダボダボと大量に野菜ジュースに注ぎ込まれてしまったのである。実はこのデスソース、粘性が高い為、タバスコ瓶よりもソース液の出る口が若干広いのである。知らなかった訳ではないが、ついいつものタバスコを振るようにかけてしまったのだ。そしてそのダボダボの量は決して見過ごすことの出来ないものであった。例えば注がれたデスソースがタバスコ10滴分の量だとしよう。そうするとこの時野菜ジュースに注がれたのはタバスコ230滴換算の辛さのペッパーソースとなるのである。辛さで言うならタバスコ一瓶分ぐらいはあるかもしれない。タバスコ一瓶は60mlだが、計算するとデスソースは2.6mlでタバスコ一瓶分の辛さだからである。


だがオレは一瞬躊躇したがまあダイジョブだ!と、あまり気にせずデスソース入り野菜ジュースを一気に飲み干してしまったのである。(基本的に全ての飲料は一気飲みするオレである。)だいたい人生それ自体「なんとかなんべえ」とこの歳まで生きてきたオレだ。だがこの「なんとかなんべえ」が命取りとなることもあるということをこの時身をもって知ったのだ。


最初は「あーやっぱちと辛いねえ」程度に思ったのだ。
しかし数分後。
きた。
きました。
凄まじい激痛が。
胃の中一杯の金タワシが胃壁を削っているかのような痛みが。


なにしろタバスコ一瓶を一気に胃に流し込んでしまったようなものなのだ。七転八倒とはまさにこのことである。あまりにも阿鼻叫喚の惨たらしい有様だったので詳細には書かないが、一時は救急車?とまで思ったぐらいだ。しかしデスソースで死んじゃったらそれは単なるシャレである。墓碑銘には「デスソースに死す」とか書かれるのだろうか、オレはシャレのために死ぬのだろうか、日頃幾ら人生ネタだらけ!とか言ってても、ネタのために死ぬとは如何なものであろうか、などというようなことが走馬灯のように脳裏をよぎったのある。しかし。幸運なことに九転十倒ぐらいした頃にはなんとか痛みは収まってきた。悪運の強い男である。文字通り地獄からの生還だ。いまや「地獄から還ってきた男」といえばチャック・ノリスかオレかというぐらいである。…などと冗談言っている場合ではない。
いやあの時はホントに参った。皆さんもデスソースの取り扱いには十分気をつけましょう。


と言う訳でここで一言:
「腹も身のうち!」