隠し部屋を査察して / エリック・マコーマック

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

カナダの作家エリック・マコーマックの短編集。
いや〜なにしろ不気味で嫌らしいお話が目白押しです。かと言ってホラーという括りでもなく、やはり奇妙な味の作品と言うのでしょうか。
巻頭の「隠し部屋を査察して」は不条理劇めいた短編で、不可思議な社会と理解不能な制度の中で生きる畸形的な人間達を描いています。
パタゴニアの悲しい物語」ではキャンプの火を囲んで男達が自らが見聞きした薄気味悪い悲惨な話を順繰りと話してゆく、という物語ですが、この短編集自体が「パタゴニアの悲しい物語」で物語られる汚らわしい話なのではないかと思えてきます。
「刈り跡」はある日世界に幅100メートル、深さ30メートルの亀裂が出来、それがあらゆる物を飲み込みながら秒速で地球上を横断していく、という大胆でSFチックなストーリー。しかしその筆致はパニックを物語るわけではなくあくまでもシュール。
一転、「庭園列車 第一部:イレネウス・フラッド」ではとある島での邪悪でおぞましい習俗と、淫靡で悪魔的な性技が物語られ、同「 第二部:機械趣味」では列車の中に作られた奇妙な異次元の世界を闊歩する男を描いています。
そして何よりもイヤ〜な気分になれるのは「祭り」という短編。祭りの趣旨も、祭りに集まる人々についても、何も説明されること無く異常で吐き気を催すような「出し物」が演じられていきます。
これらエリック・マコーマックの物語は、ヒロエニムス・ボシュの描く幻想絵画《地獄》の中から抜け出してきた悪夢の生き物達が、人間の皮を被ってこの世界の歪んだ戯画を演じているような、黒い哄笑とサディスティックな苛虐に満ちています。
エリック・マコーマックイングランド出身のカナダ移住者なのですが、「海を渡ったノックス」はその彼の出自を語ったと思われる作品。新大陸に上陸したヨーロッパ人たちが現在カナダである土地で原住民達をなぶりものにしてゆく惨たらしい話ですが、信教の名の下に異端者・異邦人を虐殺していったヨーロッパとカナダの歴史の裏の陰惨さが、彼の創作する作品の元になっているような気がします。
このように猟奇的な作品が目白押しなエリック・マコーマック、なかなか楽しめる作品集でした。